成年後見人というと「本人の代わりに何でもできる」「後見人さえいれば介護はいらない」などと思われることもありますが、実際のところはどうなのでしょうか?
実際のところ、成年後見人にはできることとできないことがあります。家族が認知症になり成年後見制度を使い始めた場合に、周囲の人々が成年後見人の仕事内容をよく理解しておかなければ、本人のために必要な支援が行き届かず、「こんなはずじゃなかった」という事態になりかねません。
この記事では、成年後見人の権限に注目し、成年後見人の基本的な役割や「できること・できないこと」を具体的に解説します。
そもそも成年後見人とは?
成年後見人とは、判断能力が不十分な方(=成年被後見人、または本人)のために家庭裁判所によって選任される法定代理人です。
その主な役割は本人の財産管理や、法律手続きの支援および代行です。
成年後見人は、本人が判断能力の欠如によって不利益を受けないよう、本人のために考え、行動します。あくまで「本人の利益を守ること」が目的であり、家族や後見人自身の都合を優先することは許されていないのです。
成年後見人ができること(成年後見人の権限)
それではさっそく、成年後見人の仕事内容を確認していきましょう。
成年後見人には、本人のために行使できる幅広い権限が与えられていますが、その権限は大きく2つに分類されます。
その1:財産管理権
1つ目は、本人の財産を管理するための財産管理権です。
判断能力が低下している本人には、適切な財産管理を期待することができません。そこで、法定代理人である成年後見人が、本人に代わって財産管理を行います。
財産管理権の具体的な内容は、以下のとおりです。
こういった行為を通して、成年後見人は、本人の財産を安全に保全し、維持・管理しなければならないのです。
このように、本人の財産は成年後見人が管理することになりますが、ここで疑問となる点が「本人やその家族など、後見人以外の人はお金が使えなくなるのか?」という点でしょう。
結論として、本人の日常生活に必要なお金は「小口現金」として、本人の同居家族や介護関係者などが管理します。成年後見人はいつも本人の近くにいるわけではないので、本人の生活の面倒を見ている人がある程度のお金を管理し、後見人がその残高を適宜確認するようなイメージです。
ほかにも成年後見人の権限について疑問を抱かれる方も多いでしょうが、後見人は、本人の意思や利益を最優先するという原則のもと、これらの権限を行使します。
その2:身上監護権
2つ目は、本人の生活を適正に管理するための身上監護権です。
本人には介護が必要なケースも多く、病院への通院や施設の入所等、生活にかかわる様々なことを判断をして、各種契約等の手続きをしなければなりません。成年後見人は本人の代わりにそういった判断や手続きを行います。
身上監護権の具体的な内容は、以下のとおりです。
このように、成年後見人は、本人が適切な介護・医療を受けられるよう気を配り、手配しなければならないのです。
成年後見人ができないこと
一方で、成年後見人には「できないこと」もあります。
その1:本人の財産を自由に使うこと
成年後見人は本人の財産を預かりますが、その財産を自由に使うことは決して許されません。
また、後見人自身のためでなくとも、例えば本人の家族など、本人以外の人のために使うことも禁止されています。
このような不正行為があれば、成年後見人を解任されるのみならず、事案によっては刑事罰を受ける可能性もあります。
その2:本人のための労務の提供(事実行為)
成年後見人の仕事には、事実行為は含まれていません。
事実行為とは、本人のために直接支援をするような以下のような行為を指します。
- 外出時の付き添い、送迎
- 家事全般
- 介護や介助
成年後見人は、介護のプロではなく、その仕事はあくまで財産管理と身上監護です。
本人が事実行為によるサポートを必要としている場合、成年後見人は、家事代行や介護タクシーといったサービスを手配します。直接的な事実行為はできずとも、本人が過ごしやすい環境を整えられるよう、間接的に支援をしていくのです。
その3:婚姻・養子縁組等にかかわる行為(身分行為)
成年後見人は、本人に代わって身分行為をすることができません。より正確にいうと、後見制度を利用するほど判断能力が低下している場合であっても、身分行為は本人が自分の意思で行います。
身分行為とは、以下のような行為です。
- 結婚・離婚等の婚姻に関する行為
- 縁組・離縁等の養子に関する行為
- 子の認知
このような行為は本人の一身に専属するものとして、本人しかできないようになっています。
また、他にも「遺言書の作成」や「選挙権の行使」は本人しかすることができません。
その4:医療行為への同意
成年後見人は、本人が受ける医療行為への同意は原則としてできません。
手術や輸血、延命治療の中断には、治療を受ける人やその親族の同意が必要とされるのが一般的です。しかし、成年後見人には、このような医療行為への同意権はありません。
たとえ身寄りがおらず、本人の意識がないような場合であっても、成年後見人が代わりに同意をすることはできないのです。
その5:日用品の買い物の同意や取消し
成年後見人は本人の行為について同意や取消しをすることができますが、この権限は、本人がした日用品の買い物(売買行為)には及びません。
日用品を買っても通常は高額にはならず、また、日用品の買い物のたびに成年後見人の許可を得るのは現実的ではないからです。よって、判断能力が低下している本人であっても、日用品の買い物は単独で行うことができます。
なお、どの程度の金額が日用品の買い物にあたるかは、本人の家計の状況などの事情によって決まります。
その6:本人と利益が相反する行為
成年後見人は、本人と利益が相反する行為(相反する可能性がある行為を含む)をすることができません。
本人との利益が相反する行為とは、以下のような行為を指します。
- 本人の保証人になること
→ 具体的には、借金の保証人や入院時の身元引受人などです。保証人は、本人がお金を払えないときに代わりに支払うことになりますが、そうすると、立て替えたお金を本人に請求することになります。成年後見人が本人にお金を請求すると利益が相反するので、後見人は初めから保証人になれません。 - 本人と契約すること
→ 成年後見人は「本人の代わり」という立場であり、成年後見人が本人と契約をすると、法律的に矛盾した行為になってしまいます。よって、成年後見人が本人と契約をすることはできません。
→ この契約には売買契約や賃貸借契約、貸金契約といった一般的な契約のほか、遺産分割協議なども含まれます。
これまで成年後見人ができること・できないことを紹介しましたが、他にも「家庭裁判所の許可があればできること」もいくつかあります。
例えば、本人が住んでいた家(居住用不動産)の売却は、財産管理権の範囲に含まれる行為ですが、家庭裁判所の許可が必要です。「家という重要な不動産を売るには相応の理由が必要だ」という考えのもと、本人のために本当に家を売る必要があるか、資産や生活の状況を総合的に判断して許可が出されます。
また、本人が亡くなると成年後見人の仕事は当然に終了しますが、本人に身寄りがない場合、ご遺体の引取りや葬儀の手配をする人が誰もいない状態になってしまいます。このような事態を避けるため、成年後見人は、家庭裁判所の許可があれば、こういった行為(死後事務)ができることになっています。
成年後見人の仕事は、本人の生活を大きく左右します。そのような重大な仕事であるからこそ、その権限は法律で明確に定められているのです。
成年後見人の権限を理解することの重要性
このように、成年後見人には、できることとできないことがあります。
本人の周囲にいる人がその役割をきちんと理解していなければ、本人が不利益を被ることになりかねません。
例えば、「病院の付き添いは後見人がするはずだ」「身元保証人になれる人がいないが、後見人がいるから大丈夫だろう」という思い込みがあると、本人が必要な支援を受けられない可能性が生じます。
成年後見人の役割をきちんと理解し、家族・介護関係者・医療関係者・地域のコミュニティといった包括的な役割分担を見据えて、本人の生活を円滑に支援することが重要です。
まとめ
成年後見人の主な権限は「財産管理」と「身上監護」です。成年後見人は、本人の財産を預かり、本人の代わりに契約を締結する権限を活かし、本人の生活をサポートします。
一方で、事実行為や身分行為、医療行為への同意といった行為は、成年後見人であってもすることができません。また、本人と利益が相反するような行為は、成年後見人の立場上、認められません。
成年後見人がその権限を最大限に活用して本人の生活を支えるには、周囲の人々が成年後見人の仕事を正しく理解しておく必要があるのです。

執筆・監修:司法書士 廣畑 優(ひろはた司法書士事務所代表)
大阪市に事務所を構える司法書士/相続・遺言・家族信託・成年後見など、家族や財産に関する手続きを中心に幅広く対応
1級ファイナンシャル・プランナー(FP)資格も保有し、法務とお金の両面からご家庭をサポート/「わかりやすく、誠実に」をモットーに、安心して相談できる身近な専門家を目指しています。


