もしもの時に備える家族信託|認知症や資産凍結を防ぐ3つの活用事例をご紹介

もしもの時に備える家族信託|認知症や資産凍結を防ぐ3つの活用事例をご紹介

高齢化が進むなか、「親が認知症になったら財産はどうなるのか」「将来、実家や預金をどう管理すればいいのか」といった不安を抱えるご家庭は少なくありません。

そのような事態を解決する手段として、従来は成年後見制度が主に知られていましたが、近年では、より柔軟な財産管理ができる「家族信託」が注目されています。

とはいえ、具体的にどのようなケースに家族信託が有効なのかは、なかなかイメージできないものです。

そこで今回は、弊所司法書士が実際に目にした家族信託の事例から、家族信託が特に有効に機能する3つの典型的な事例をご紹介いたします。

そもそも家族信託とは?

家族信託とは、財産を持つ人(=委託者)が、その財産を、信頼できる家族等(=受託者)に預けて、管理・処分を任せる制度です。

財産の所有者はあくまで委託者なので、受託者はその財産を「預かり物」として大切に管理しなければなりません。そして受託者の財産管理による利益は、受益者に還元されます(家族信託においては通常、受益者は委託者と同一人物です)。

一番よくあるケースは、高齢の親が委託者兼受益者となり、その子どもが受託者となるケースです。以下では、このケースを前提に解説していきます。

家族信託の主なメリットは、以下のとおりです。

  • 親が認知症になった後でも、安定した資産の管理・処分ができる
    → 認知症になってしまうと、銀行口座が凍結したり不動産の売却ができなくなったりという「資産の凍結」が生じます。家族信託をして財産の管理者を事前に決めておくことで、このような資産の凍結を防ぐことができます。
  • 信頼している人に財産を預けることができる
    → 成年後見制度では、一般的に、弁護士や司法書士といった専門家が成年後見人として財産管理を行います。なかには近しい親族が成年後見人になることもありますが、そのような場合であっても、専門家や家庭裁判所の指導監督の下で財産管理をすることになります。
    これに対して家族信託では、信頼できる家族を受託者に選ぶことができるうえに、受託者は、専門家や家庭裁判所の指導監督を受けない柔軟な財産管理をすることができます。
  • 贈与税や不動産取得税がかからない
    → 家族信託では、財産の所有者は委託者のまま変わりませんし、家族信託による利益を得るのは受益者(=委託者)です。そのため、贈与税や不動産取得税といった税金が発生することはありません。
    ※ ただし、契約内容によっては受託者に所得税などが生じることがあります。

代表的な事例

このように多くのメリットがある家族信託ですが、実際にどのようなケースで利用されているのでしょうか。

代表的な事例を3つ紹介します。

事例1 親が認知症になった後に親名義の実家を売りたい

最初は、「親が認知症になった後に親名義の実家を売りたい」という事例です。不動産の家族信託ですね。

高齢の親が持ち家に一人暮らしをしている場合において、親が施設や病院に移るタイミングで実家を売却して費用を捻出したい、と考えるご家族は非常に多いです。

しかし、不動産を売るには大変な事務手続が必要となりますし、認知症を発症してしまった場合、売却行為そのものができません。つまり、「本当にお金が必要なタイミングで家が売れない」という事態が起こりかねないのです。

家族信託を活用すれば、このような事態を予防することができます。家族信託で家を子どもに預けておけば、子どもが受託者として家の管理権限をもつため、親が認知症になったあとでも家を売ることができるのです。

また、売却までいかずとも、空き家になった家の管理や、家を賃貸する場合の家賃の管理など、受託者には様々な権限を与えることができるので、施設に入ることになっても資産が自由に動かせ、安心です。

特に「家を売らないと老後資金が心配だが、元気な間はできる限り家に住み続けたい」という方にはこの方法がおすすめです。信託契約は、自分が元気なうちに、自分が信頼できる人に財産を預けることができるので、安心感を得ることもできます。

事例2 親の預金を守りたい・預金の凍結を避けたい

次は、「親の預金を守りたい・預金の凍結を避けたい」という事例です。こちらは現金を信託する事例になります。

高齢者のなかには、ご自身の預貯金の管理に不安を覚える方が多くいます。さらには高齢者を狙った詐欺等の犯罪も多く、心配事は尽きないでしょう。また、銀行に認知症だと判断されると、口座を凍結されるリスクもあります。口座を凍結されてしまうと、日常生活にも支障が生じることでしょう。

家族信託では、このような不安も解消できます。お金を受託者に預けると、預けたお金は「信託専用口座」や「信託口口座」のなかで、受託者個人のお金とは分けて管理されます。受託者である子どもは、親の生活費や施設代、その他信託契約のなかで定めた費用について、このお金から支払うことになるのです。

このようにお金の管理を子どもに任せることができるので、詐欺被害への心配や、口座凍結への不安が解消できます。また、成年後見制度のように、裁判所へ定期的に報告する必要もありませんので、管理者側の負担も軽減できます。

事例3 成年後見制度を使いたくない

最後は「成年後見制度を使いなくない」という事例です。

成年後見制度を使うと、成年後見人がすべての財産を管理し、契約行為等の法律行為を代理します。この成年後見人は家庭裁判所が選任するのですが、多くは弁護士や司法書士といった専門家が選任され、たとえ親族が選任されたとしてもこういった専門家の監督が就くことが多いです。このような専門家には、月額2万円~の報酬を支払わなければなりません(報酬の額は家庭裁判所が決定します)。

さらには家庭裁判所の監督を受ける必要があるため、定期的に報告書を提出しなければなりません。特に不動産の売却や定期預金の解約を行う際は、専門家や家庭裁判所への事前報告も必要です。

このように、成年後見制度は、「本人の財産を守る」ことを重視する厳格な制度です。そのため、財産の自由度が少なく、長期的なコストが発生するというデメリットが生じます。

家族信託を活用すれば、このデメリットを避けることができます。

家族信託では、「どの財産を預けるか」「誰に預けるか」「受託者にどのような権限をもたせるか」「受託者に報酬を払うか否か」といった事項を自由に決めることができます(ただし、信託法上の制限もあります。)。第三者である専門家や家庭裁判所の監視が入ることもありませんので、手続負担や費用を削減することが可能です。

注意点:家族信託を検討する前に

このように、家族信託は「親が認知症になった後に不動産を管理・処分したい」「親の預貯金を保護したい」「成年後見制度のデメリットが気になる」といった需要に応える制度です。

ただし、万能な制度ではなく、いくつか注意点もあります。

  • 認知症になる前に準備をしなければならない
    → 家族信託を始めるための信託契約は、認知症になる前に締結する必要があります。認知症になってしまってからは家族信託を利用することはできません。
  • 初期費用がかかる
    → 家族信託は複雑な契約であるため、一般的には専門家に依頼して準備を進めます。その際、専門家への報酬や公正証書の作成費用などが発生します。
  • 委託者と受託者の信頼関係が基盤となる
    → 家族信託は成年後見制度と異なり、家庭裁判所の監督が及ばず、家族間で完結する仕組みです。そのため、互いの信頼関係がとても重要になります。また、委託者に複数の相続人がいる場合、相続人間で争いにならないよう、事前に家族信託の仕組みや契約内容などを伝えておくなどの対策も必要でしょう。

よくある質問(Q&A)

Q
受託者が委託者の代わりに不動産を売却する場合でも、居住用不動産の3000万円控除は利用できますか?
A

利用できます。
※ ただし、委託者が各要件を満たしている必要があります。

Q
家族信託を始めるにはいくらぐらいかかりますか?
A

信託契約の内容や専門家への依頼範囲によりますが、公正証書の作成費用や司法書士・弁護士への報酬を含めると数十万円程度が目安です。後見制度の継続的な費用と比べれば、結果的にコストを抑えられるケースもあります。
※ 弊所の報酬体系はこちらをご確認ください。

Q
すべての財産を家族信託にしないといけませんか?
A

いいえ、一部の財産だけでも設定可能です。たとえば「自宅不動産だけ」「預金の一部だけ」といった形で、必要に応じて柔軟に設計できます。

まとめ

家族信託は、従来の成年後見制度では手の届かなかった需要に応える柔軟な財産管理の仕組みです。

特に今回紹介したような「親が認知症になった後の実家売却」「親の預金の凍結リスクへの備え」「成年後見制度を使わず柔軟に財産管理したい」といったケースでは、大きな力を発揮します。

ただし、契約内容の設計には法律的な専門知識が必要であり、すべての家庭にとって家族信託が最適とは限りません。家族構成や財産の内容、将来の希望に応じて、専門家に相談しながら検討することが大切です。

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