相続や生前対策のお悩みは、ひろはた司法書士事務所にお任せください

公式サイトはこちら

相続登記の義務が免除される「相続人申告登記」とは? 制度の仕組みやメリット・デメリット、手続きの流れを解説!

相続登記の義務が免除される「相続人申告登記」とは? 制度の仕組みやメリット・デメリット、手続きの流れを解説!

2024年(令和6年)4月から相続した不動産の名義変更(相続登記)が義務化されました。この義務化はすべての不動産が対象であり、相続登記を放置すると、10万円以下の過料が科されるおそれがあるため、多くの人にとって他人事ではありません。

とはいえ、「何代も前の祖先の名義になっていて相続人が何十人もいる」「遺産分割協議がまとまらない」などの理由で、相続登記ができない場合もあるでしょう。

そのような場合に相続人が過料を免れるためにつくられた制度が相続人申告登記です。相続人申告登記を申請すれば、事情があって相続手続きが進まない場合であっても、相続登記の義務を果たしたものとみなされるのです。

この記事では、相続人申告登記について、制度の仕組みやメリット・デメリット、手続きの流れを詳しく解説します。

そもそも「相続登記の義務化」とは?

相続登記とは、亡くなった方(被相続人)の名義になっている不動産を、新しい所有者の名義に変更する手続きです。

土地や建物といった不動産の権利状態は、法務局で、登記記録として管理されています。不動産の所有者が亡くなると、その不動産は相続人や受遺者といった新たな所有者のものになりますが、登記記録を変更するには新しい所有者が法務局で手続きをしなければなりません。このような手続きを相続登記といい、新たな所有者は、相続登記をすることで、その不動産が自分のものであることを第三者に証明できるようになるのです。

しかし、相続手続きを経なければ動かせない銀行預金や有価証券と違い、不動産は、相続登記をしなくても使い続けることができるため、相続登記をしない人がたくさんいました。そして、そのまま何十年も放置された土地や建物について、何代にもわたって相続が発生し、今の相続人が誰かわからなくなる事態が全国各地で発生したのです。

このような問題を「所有者不明土地問題・所有者不明建物問題」といいます。不動産の所有者がわからなければ、古くなった建物が解体できずに放置されたり、所有者不明土地が公共事業の妨げになったりといった、様々な問題が生じます。この問題を解決するために、2024年(令和6年)4月、相続登記が義務化されたのです。

相続登記の義務化により、相続または遺贈によって不動産を取得した人は、その不動産を相続したことを知った日から3年以内に相続登記をしなければ、10万円以下の過料の対象となることとなりました。

ただし、以下のような正当な理由があれば、期限を過ぎても過料は科されません。

  • 遺産分割協議が調わないとき
  • 相続人があまりに多数で、手続きに時間を要するとき
  • 病気や貧困等の事情で登記ができないとき

とはいえ、このような理由と認められるまではいかずとも、「相続人同士で話し合う機会がなかなかなく、3年以内に遺産分割が終わらないかもしれない」「相続手続きをする時間がどうしても取れない」「高齢の相続人がいて、相続登記を保留している」などといった理由で、相続登記ができない場合もあるでしょう。

このような方のために創設された制度が、今回ご紹介する相続人申告登記です。

相続人申告登記とは?

相続人申告登記とは、相続人が法務局に対して「不動産の所有者が亡くなったこと」と「自分が相続人であること」を申告するものであり、この申告によって、相続登記の義務を果たしたものとみなされ、過料が免除されます

相続人全員で行う必要がある相続登記と違って、相続人申告登記は相続人が1人で利用することができますし、相続人の調査を行う必要もなく、比較的簡単な手続きとなっている点も特徴です。

ただし、この申告の目的はあくまで「相続登記の義務を果たすこと」であり、この申告をしたからといって新たな所有者は確定しません。つまり、不動産を売却したり担保に入れたりする際には、正式に相続登記をする必要があります

要するに、相続人申告登記は、相続登記を放置するリスクのうち「過料が科されるおそれがある」というリスクのみを回避するためのものです。相続登記をしないことによるリスクは他にもたくさんありますが、相続人申告登記では、その他のリスクには対応することができません。あくまで過料を受けないための制度であることを理解して、相続人申告登記の利用を検討するようにしてください。

相続人申告登記のメリット

それでは、具体的な手続きを解説する前に、相続人申告登記のメリットとデメリットをまとめていきます。

まず、相続人申告登記のメリットは、次のとおりです。

メリット1:過料を回避できる

相続人申告登記の最大のメリットは、相続登記の義務違反による過料を回避できることです。

相続登記をするためには、相続人全員による遺産分割が必要となり、遺産の分け方に争いがある場合や相続人が多数におよぶ場合には、時間や手間がかかってしまいます。このような場合であっても、相続人申告登記をすることで、ひとまず相続登記の義務を果たしたものとみなされ、過料を回避できるのです。

誰の過料が回避できる?

相続人申告登記をすることで回避できるのは、「申告をした人」の過料です。相続人全員の過料ではありません。

つまり、誰か1人がすれば相続人全員の過料が回避できるわけではなく、回避したい相続人は自ら手続きをする必要があのです。

メリット2:相続登記と比べて手続きが簡単

続いてのメリットは、相続登記と比べて手続きが簡単であることです。

相続人申告登記は、不動産の所有者を決める手続きではなく、あくまで過料を免れるために用いられる「仮の手続き」です。そのため、通常の相続登記と比べて必要な書類が少なく、時間も費用もあまりかかりません

また、通常の相続登記では、遺言があるような場合を除き、相続人全員が関与するような手続き(遺産分割協議など)を経なければならないことがほとんどです。しかし、相続人申告登記であれば、相続人1人から申請ができるため、他の相続人と連絡が取れない場合でも利用することができます。

また、直接法務局に行かずとも、郵送やオンラインでも手続きができます。

メリット3:費用が抑えられる

最後のメリットは、費用を抑えられる点です。

通常の相続登記では、不動産の価額に応じた登録免許税(固定資産税評価額の0.4%)がかかります。例えば、評価額2,000万円の不動産であれば、8万円の登録免許税が必要です。一方、相続人申告登記は登録免許税が非課税です。費用をかけずに義務を履行できるのは大きなメリットといえます。

さらには相続登記では、相続人の数が増えれば戸籍を集めるための郵送費や戸籍の発行手数料の負担も大きくなりますし、専門家に依頼する場合にはその報酬も必要です。特に相続人が何十人にも及ぶようなケースでは、実費と専門家報酬をあわせて100万円近く必要となることも起こり得ます。このような費用をかけられない場合に、相続人申告登記は有用といえるでしょう。

相続人申告登記のデメリット

このようなメリットがある一方、相続人申告登記には、デメリットもあります。

デメリット1:最終的には相続登記をしなければならない

これは相続人申告登記をすることの直接のデメリットとはいえませんが、先述したとおり、相続人申告登記はあくまで過料を免れるためのものであり、相続登記の代わりとなるものではありません

具体的には、相続人申告登記をしたところで不動産の新たな所有者は確定しませんし、売却等の処分をすることもできません。要するに、不動産の所有者を決めて、権利関係を安定させるには、結局のところ相続登記をしなければならないのです。

そうなると手続きが二度手間になりますし、時間やお金も余分にかかってしまいます

また、相続人申告登記をしたからといって安心して、相続登記を再び放置してしまうと、さらに相続人が増えてしまって相続登記がより困難になるという事態にも繋がりかねません。

デメリット2:不動産屋のチラシや固定資産税の納付書が届く可能性

次のデメリットは、相続人申告登記をすることによるデメリットです。

相続人申告登記をすると、不動産の登記記録に「申出人の住所・氏名」が記載されます。この登記記録は誰でも見ることができるので、相続人申告登記をすると、住所や氏名が一般に公開されてしまうのです。

これにより、その不動産を売ってほしい不動産屋さんからの営業チラシが届く可能性があります。また、市区町村に相続人として把握されるため、翌年からその不動産の固定資産税の納付書が届く可能性もあります。

不動産屋さんの営業については、あまりに何度も来るようであれば「所有者ではないので売れません」と伝えればわかってもらえるでしょうし、固定資産税については所有者が決まるまでは相続人全員に納付義務があるため、すべて負担しなければならないわけではありません。

とはいえ、「住所と氏名が公開されてしまう」ということは理解したうえで、相続人申告登記をするかどうかを検討すべきでしょう。

所有者が亡くなった不動産の固定資産税

不動産の固定資産税は、毎年1月1日時点の所有者が納付します。

その時点で所有者が亡くなっていた場合であっても、役所の固定資産税課はすぐに死亡の事実を把握することはできず、新たな所有者が名乗り出るまでの間は、亡くなった前所有者のもとに固定資産税の納付書が届き続けることが多いです。

また、亡くなった方に配偶者や同居の親族がいる場合には、役所はその人を「相続人代表」として登録し、その人宛てに納付書を送ることもあります。

とはいえ、固定資産税はあくまで「毎年1月1日時点の所有者」に課されるものであり、納付書が届いたからといって全額を負担する義務はありません(ただし、自分が不動産を相続するのであれば、相続登記前でも払っておくべきでしょう)。

新たな所有者が決まっていればその人と、決まっていなければ他の相続人と相談して、固定資産税の負担者を決めておくとよいでしょう。

デメリット3:相続人としての行政的な負担を被る可能性

3つ目のデメリットは、将来的に相続人として協力するよう国から求められ、行政的な面で負担を被る可能性があるという点です。

相続登記の義務化や相続人申告登記といった制度は、相続人が不明な不動産が増えないようにするための制度です。つまり、「不動産の新しい所有者や管理者等の関係者を探すための制度」ともいえるでしょう。

このような観点で考えると、不動産申告登記によって登記記録に住所と氏名が載るということは、「不動産の関係者として国に把握される」こととも言い換えることができます。

現時点では、相続人申告登記をしたからといって不動産の管理者となることはありません。しかし、この先何年、何十年と経ったあとに、不動産の所有者が現れなかった場合には、「所有者に代わってこの不動産を管理してください」と国からお願いされることがないとは言い切れません

あくまで仮定の話ですが、万が一のリスクとして知っておきたいです。

相続人申告登記の流れ

では次に、実際に相続人申告登記をする際の手続きの流れを見ていきましょう。

ステップ1:必要書類を準備する

まずは、必要書類を準備します。

相続人申告登記に必要な書類は、以下のとおりです。

  • 申出書(法務局のホームページにひな形あり)
  • 所有者が死亡していることがわかる戸籍謄本
  • 申出人が所有者の相続人であることがわかる戸籍謄本
    → 通常の相続登記であれば、相続人全員の戸籍が必要となりますが、相続人申告登記は申出人と被相続人の関係がわかる範囲の戸籍で足ります。
  • 申出人の住民票または戸籍の附票

ステップ2:申出書を作成する

必要書類が準備できたら、法務局のホームページの記載例をもとに、申出書を作成していきます。

記載例は事例ごとに細かく掲載されているので、ご自身の事例にあった例を参考にしてください。

申出書記載例
申出書記載例(所有者の子が申告する場合)
引用元:法務省公開資料 登記記録上の所有者が亡くなり、その子において、相続人申告登記の申出を行う場合

記載する際に特に悩む点は「提出先となる法務局」と「不動産の表示」だと思います。

「提出先となる法務局」は、対象となる不動産を管轄する法務局です。どこの法務局が提出先となるかは、こちらのページをご確認ください。

そして「不動産の表示」は、登記記録上の正確な不動産の情報を指します。不動産の表示における「所在」は住所とは異なりますので、注意してください。登記事項証明書やオンラインで取得可能な登記情報固定資産税評価証明書等を見ながら、正確に記載してください。

ステップ3:管轄の法務局に提出する

申出書が準備できたら、必要書類と合わせて管轄の法務局へ提出します。提出は、窓口のほか、郵送でも可能です。

提出後は、法務局の職員が内容を審査します。申請書類に不備があれば、申出書に書いた連絡先に連絡があるので、速やかに対応するようにしましょう。

なお、不備の内容によっては、直接法務局まで出向いて修正する必要があることもあります。

オンライン申請の場合

オンライン申請をする場合、申請書はオンライン上で作成し、送信します。

オンライン申請には、法務局の「かんたんん登記申請」というサイトを利用します。会員登録やプリンターが必要となりますが、細かい操作ガイドも用意されているので、時間を短縮したい方はチャレンジしてみてください!

ステップ4:申出の完了

法務局での審査が終わると、相続人申告登記は完了です。

通常の相続登記であれば、登記が完了すると「登記識別情報」という権利証が発行されます。しかし、相続人申告登記をしても不動産の所有者になるわけではないので、完了後は特に何も発行されません。

申告が正しく反映されているかを確認するには、登記事項証明書や登記情報を取得してみましょう。

まとめ

相続人申告登記は、相続登記の義務化に伴って新設された制度で、わけあって相続登記ができない場合であってもその義務を果たしたものとみなされる仕組みです。

過料を回避でき、手続きも簡単で費用も安いというメリットがある一方、権利関係は確定せず、将来的に正式な相続登記が必要となるといったデメリットもあります。あくまで暫定的な措置なので、メリットとデメリットを比較したうえで手続きすることをおすすめします。

また、大前提として、相続が発生したときは、相続登記などの各種手続きを先延ばしにしないことが大切です。各種相続手続きや相続登記、相続人申告登記などでお困りの方は、ぜひ一度、司法書士などの専門家にご相談ください。

この記事を書いた人
ひろはた司法書士事務所 司法書士 廣畑 優のプロフィール写真

執筆・監修:司法書士 廣畑 優(ひろはた司法書士事務所代表)

大阪市に事務所を構える司法書士/相続・遺言・家族信託・成年後見など、家族や財産に関する手続きを中心に幅広く対応

1級ファイナンシャル・プランナー(FP)資格も保有し、法務とお金の両面からご家庭をサポート/「わかりやすく、誠実に」をモットーに、安心して相談できる身近な専門家を目指しています。

タイトルとURLをコピーしました