「成年後見制度」や「成年後見人」という言葉、みなさんどこかで目にしたことがあるのではないでしょうか?
この制度は、加齢や障がいによって判断能力が不十分な状態にある方が、社会生活を送るうえで損をしてしまわないように保護するためのものです。
高齢化が進む現代においてはとても重要な制度ですが、基本的な仕組みを誤解されていたり、メリット・デメリットを把握しないで使われてしまったりするケースもよくみられます。
今回は、そんな成年後見制度について、内容やメリット・デメリット、利用するときの流れなどをわかりやすく解説します。
成年後見制度とは?
成年後見制度とは、判断能力が不十分な方(=成年被後見人、または本人)に代わって、家庭裁判所が選任する成年後見人が、財産管理や法律手続を支援・代行する制度です。
成年後見人は、常に成年被後見人の利益になるよう業務を行わなければなりません。また、成年後見人は、常に家庭裁判所の監視下におかれます。
具体的にイメージしてみましょう。寝たきりになってしまい入院している認知症患者・Aさんをイメージしてください。
Aさんは、自分で通帳や実印などの貴重品を管理することができません。さらには、以前使っていたスマートフォンの料金や、自宅の水道光熱費も引き落とされ続けていますし、病院への入院手続きにも困るでしょう。
このような場合、成年後見人がいれば、貴重品の管理や契約の解除、手続きの代行(もしくは代行の手配)などが可能です。
また、もしAさんに未婚の兄弟姉妹がいて、その方が亡くなり、Aさんが相続人になったとしましょう。この場合、Aさんはその兄弟姉妹の遺産分割協議に参加する権利を有しますが、成年後見人がいれば、Aさんの代わりに遺産分割協議をすることも可能です。
ちなみに民法では、成年後見を含め、判断能力が不十分な方を守るための4つの制度が設けられています。
- (成年)後見
- 保佐
- 補助
- 未成年後見
1~3番は18歳以上の成人に対するものであり、保護が必要な度合いで区別されています。その度合いは①>②>③となっていて、③は、たとえば「まだまだ元気だけど、何千万円もする大きな買い物(不動産などの契約)は不安だ」といった場合に利用されます。
4番の未成年後見は、保護者がいない未成年者のためにある制度であり、少し性質が違います。
成年後見制度のメリット・デメリット
では、成年後見制度の概要が確認できたところで、次にそのメリットとデメリットをみていきます。
このように、成年後見制度は制度として安定しており、安心感もありますが、それゆえに硬直的で柔軟性に欠ける部分があります。利用の際、周囲の方々は、このようなメリット・デメリットがあることを十分に理解するようにしましょう。
利用の流れ
成年後見制度を利用したい場合、以下のような手続きを踏みます。
① 申立人を決める・必要書類を集める
成年後見制度を利用するためには、家庭裁判所への申立てが必要です。そして、申立人となることのできる人は、民法で以下のように定められています。
通常は、配偶者や四親等内の親族が申立人となることが多いです。
申立人が決まったら、次に必要書類を集めます。申立書や親族関係図、財産目録といった定型の書式は家庭裁判所のWebページからダウンロードすることができます。裁判所によって書式が異なるので、どこの裁判所を利用するか、管轄をよく確認してください(管轄は、本人の住所で決まります。管轄の一覧はこちら。)。
その他、以下のような書類が必要となります。
② 家庭裁判所に申立てをする
書類が集まったら、管轄の家庭裁判所に提出します。
このときに、成年後見人の候補者を決めることもできます。候補者には、親族や手続きを補助した弁護士・司法書士などがなることが多いです。家庭裁判所は、候補者が後見人になるよう考慮はしてくれますが、最終的に誰が後見人になるのかを決めるのは家庭裁判所なので、候補者が就任できるとは限りません。
③ 家庭裁判所による調査・面談
申立てがされたら、家庭裁判所は、本人の判断能力や申立ての妥当性を調査します。
このときに、裁判所が追加での医師の鑑定や、本人や関係者との面接を要すると判断することがあります。その結果によって、裁判所は、後見から保佐・補助に変更したり、成年後見人をさらに監督する成年後見監督人が必要だと判断したりします。
こうした調査が終わると、裁判所は、本人の心身状態や生活、財産の状況などの一切の事情を考慮して、成年後見人(および成年後見監督人)を選びます。
④ 成年後見人が選任される
選任された成年後見人は、まずは本人の財産を調査し、財産目録と収支予定表を作成します。その後は成年後見人として本人の財産管理や法律行為の代理をすることになり、成年後見人の業務がスタートするのです。
通常、申立てからここまで、1~2か月程度かかります。
まとめ
成年後見制度は、判断能力が不十分な方を法的に支援し、生活や財産を守る大切な仕組みです。特に不動産の売却や相続といった大きな手続きにおいて、この制度の活用が欠かせない場面もあります。
ただし、制度の利用にはメリットだけでなく、「家庭裁判所の監視が入る」、「一度始めたらやめられない」などの負担もあります。手続きも簡単ではないため、利用を検討する際は専門家に相談し、本人にとって最適な支援の形を選ぶことが大切です。
補足 ~成年被後見人の利益とは?~
成年後見人は、常に成年被後見人(本人)の利益になるよう業務を行わなければなりません。
これは、例えば、「先述の遺産分割協議において、Aさんの取り分が必ず法律で定められた相続分より多くなるようにしなければならない」といった形式面での話です。
たとえAさんが元気なときに「ほかの相続人に全部あげる」と口約束していたとしても、Aさんが意思表示をできなくなってしまった以上、裁判所や成年後見人は、Aさんの権利を守るため、最低限法律で定められた取り分は保護しなければならないという判断をします。
このように、本人の利益を守るとはいっても、常に本人の意思通りになるわけではありません。しかし、意思表示ができなくなってしまった以上、手厚い保護をしなければならないというのが成年後見制度の要点です。