成年後見制度とは? 内容やメリット・デメリット、手続きの流れをわかりやすく解説!

成年後見制度」や「成年後見人」という言葉、みなさんどこかで目にしたことがあるのではないでしょうか?

この制度は、加齢や障がいによって判断能力が不十分な状態にある方が社会生活を送るうえで損をしてしまわないように保護するためのものです。

高齢化が進む現代においてはとても重要な制度ですが、基本的な仕組みを誤解されていたり、メリット・デメリットを把握しないで使われてしまったりするケースもよくみられます。

今回は、そんな成年後見制度について、内容やメリット・デメリット、利用するときの流れなどをわかりやすく解説します。

成年後見制度とは?

成年後見制度とは、判断能力が不十分な方(=成年被後見人、または本人)に代わって、家庭裁判所が選任する成年後見人が、財産管理や法律手続を支援・代行する制度です。

成年後見人は、常に成年被後見人の利益になるよう業務を行わなければなりません。また、成年後見人は、常に家庭裁判所の監視下におかれます。

具体的にイメージしてみましょう。寝たきりになってしまい入院している認知症患者・Aさんをイメージしてください。

Aさんは、自分で通帳や実印などの貴重品を管理することができません。さらには、以前使っていたスマートフォンの料金や、自宅の水道光熱費も引き落とされ続けていますし、病院への入院手続きにも困るでしょう。

このような場合、成年後見人がいれば、貴重品の管理や契約の解除、手続きの代行(もしくは代行の手配)などが可能です。

また、もしAさんに未婚の兄弟姉妹がいて、その方が亡くなり、Aさんが相続人になったとしましょう。この場合、Aさんはその兄弟姉妹の遺産分割協議に参加する権利を有しますが、成年後見人がいれば、Aさんの代わりに遺産分割協議をすることも可能です。

補足 ~成年被後見人の利益とは?~

成年後見人は、常に成年被後見人(本人)の利益になるよう業務を行わなければなりません。

これは、例えば、「先述の遺産分割協議において、Aさんの取り分が必ず法律で定められた相続分より多くなるようにしなければならない」といった形式面での話です。

たとえAさんが元気なときに「ほかの相続人に全部あげる」と口約束していたとしても、Aさんが意思表示をできなくなってしまった以上、裁判所や成年後見人は、Aさんの権利を守るため、最低限法律で定められた取り分は保護しなければならないという判断をします。

このように、本人の利益を守るとはいっても、常に本人の意思通りになるわけではありません。しかし、意思表示ができなくなってしまった以上、手厚い保護をしなければならないというのが成年後見制度の要点です

ちなみに民法では、成年後見を含め、判断能力が不十分な方を守るための4つの制度が設けられています。

  • (成年)後見
  • 保佐
  • 補助
  • 未成年後見

1~3番は18歳以上の成人に対するものであり、保護が必要な度合いで区別されています。その度合いは①>②>③となっていて、③は、たとえば「まだまだ元気だけど、何千万円もする大きな買い物(不動産などの契約)は不安だ」といった場合に利用されます。

4番の未成年後見は、保護者がいない未成年者のためにある制度であり、少し性質が違います。

成年後見制度のメリット・デメリット

では、成年後見制度の概要が確認できたところで、次にそのメリットとデメリットをみていきます。

メリット

  • 本人の生活を守ることができる
    やはり最大のメリットは、本人の生活の保護です。さきほどAさんの具体例に挙げたように、本人の財産が不当に脅かされないよう、また、本人の権利が正しく行使できるよう、保護することができます。
  • 本人が認知症になってしまってから誤って結んだ契約を取り消せる
    成年後見人には、取消権という権限があります。この権限によって、本人が結んだ不当な契約(訪問販売による押し売りや、不動産の売却など)を取り消すことができます。
  • 現預金がなくなってしまいそうなとき、本人の代わりに不動産を売却できる
    現預金は、生活を送るうえで欠かせません。そんな現預金が枯渇しそうなときに、成年後見人は、裁判所の許可を得て、本人の財産を現金化することができます。
  • 成年後見人は、家庭裁判所の監視下に置かれる
    成年後見人は、本人の財産の状況などを定期的に家庭裁判所に報告しなければなりません。また、③の不動産の売却のような大きな決定をする場合、家庭裁判所の許可が必要となります。こういった仕組みにより、成年後見人が万が一にでも本人の財産を着服してしまうことがないよう監視しているのです。

デメリット

  • 費用と時間がかかる
    成年後見人の選任を家庭裁判所に申し立てるときには、所定の費用がかかりますし、ある程度の時間もかかります(後述)。また、手続きを専門家に依頼する場合、専門家の報酬も発生します。さらに、成年後見人が決まった後も、成年後見人の報酬も発生します(報酬は、本人の財産額によります。)。
  • 家庭裁判所の許可がなければ、財産を大きく動かせない許可に時間がかかる
    これはメリットでもありますが、成年被後見人の財産の管理状況は家庭裁判所が監視するため、たとえご家族であっても自由に動かすことはできません。相続税対策のための生前贈与なども困難です。また、不動産を売却したいときであってもすぐには売却することができず、裁判所の許可が下りるまでの時間がかかりますし、価格を自由に決めることもできず、基本的に市場価格よりも高額でないと売却許可は下りません
  • 一度成年後見人が決まるとなかなか変えられない終了できない
    成年後見人の職務は、基本的に、成年被後見人が死亡するまで続きます。成年後見人の性格や細かい仕事の方針には個人差がありますが、一度決まってしまうと、それ相応の理由(仕事をしてくれない、本人の財産を侵害しているなど)がない限り、変えることはできません。
  • 本人の意思を反映することが難しい
    成年後見人の仕事は、本人が判断能力を失ってしまってから始まります。そのため、本人が元気なうちの意思表示を尊重することが難しく、一人ひとりに合わせた対応がほかの制度と比べて困難です。

このように、成年後見制度は制度として安定しており、安心感もありますが、それゆえに硬直的で柔軟性に欠ける部分があります。利用の際、周囲の方々は、このようなメリット・デメリットがあることを十分に理解するようにしましょう。

補足 ~他の制度との比較~

成年後見制度と似たような制度として、次のような制度が挙げられます。

  • 任意後見契約
    簡単にいえば、「成年後見人を事前に決めておける契約」です。元気なうちに後見人となる人と契約書を書いておき、認知症になった後にその人を後見人とすることができます。
    (後日、詳しい記事を投稿予定)
  • 信託(民事信託、家族信託)
    親と子どもが契約し、自分の財産を託す制度です。子どもは親の財産を親のために使わなければならず、契約上の責任を負います。その代わり、不動産の売却手続きを代行できるなど、大きな権限も与えられます。
    (後日、詳しい記事を投稿予定)
  • 単なる代理
    これは制度とは少し違いますが、親が認知症になったとき、子どもがその財産を管理することはよくある話です。しかし、何も契約せずに、成年後見制度も利用していない場合、以下のようなリスクがあります。
    ・ 銀行口座が凍結される。
    ・ 代理できない手続きがある。
    ・ 専門知識がなく、損をしてしまう恐れがある。

利用の流れ

成年後見制度を利用したい場合、以下のような手続きを踏みます。

① 申立人を決める・必要書類を集める

成年後見制度を利用するためには、家庭裁判所への申立てが必要です。そして、申立人となることのできる人は、民法で以下のように定められています。

  • 本人
  • 配偶者
  • 四親等内の親族(子、孫、兄弟姉妹、従兄弟、甥、姪など)
  • ほかの制度の当事者(保佐人、補助人など)や検察官

通常は、配偶者や四親等内の親族が申立人となることが多いです。

申立人が決まったら、次に必要書類を集めます。申立書や親族関係図、財産目録といった定型の書式は家庭裁判所のWebページからダウンロードすることができます。裁判所によって書式が異なるので、どこの裁判所を利用するか、管轄をよく確認してください(管轄は、本人の住所で決まります。管轄の一覧はこちら。)。

その他、以下のような書類が必要となります。

  • 医師の診断書
    「成年後見人が必要」であることを証明する診断書です。この内容によっては、保佐や補助になることもあります。
  • 本人の戸籍や住民票
  • 本人が登記されていないことの証明書(すでに後見人がついていないことを証明するもの)
  • 本人の財産に関する資料
    預貯金の通帳や、証券口座の証明書、不動産の登記事項証明書など、本人がもっている財産を証明する資料が必要です。

申立てにかかる費用は申立人が負担します。上記の書類を集める費用(病院代や住民票等の手数料など)のほか、以下のような費用がかかります。

収入印紙:3,400円分
郵便切手:4,000円分
医師の鑑定費用:10~20万円程度(家庭裁判所が、診断書とは別に医師の鑑定が必要だと判断した場合に必要です。)

② 家庭裁判所に申立てをする

書類が集まったら、管轄の家庭裁判所に提出します。

このときに、成年後見人の候補者を決めることもできます。候補者には、親族や手続きを補助した弁護士・司法書士などがなることが多いです。家庭裁判所は、候補者が後見人になるよう考慮はしてくれますが、最終的に誰が後見人になるのかを決めるのは家庭裁判所なので、候補者が就任できるとは限りません

③ 家庭裁判所による調査・面談

申立てがされたら、家庭裁判所は、本人の判断能力や申立ての妥当性を調査します。

このときに、裁判所が追加での医師の鑑定や、本人や関係者との面接を要すると判断することがあります。その結果によって、裁判所は、後見から保佐・補助に変更したり、成年後見人をさらに監督する成年後見監督人が必要だと判断したりします。

こうした調査が終わると、裁判所は、本人の心身状態や生活、財産の状況などの一切の事情を考慮して、成年後見人(および成年後見監督人)を選びます。

④ 成年後見人が選任される

選任された成年後見人は、まずは本人の財産を調査し、財産目録と収支予定表を作成します。その後は成年後見人として本人の財産管理や法律行為の代理をすることになり、成年後見人の業務がスタートするのです。

通常、申立てからここまで、1~2か月程度かかります。

まとめ

成年後見制度は、判断能力が不十分な方を法的に支援し、生活や財産を守る大切な仕組みです。特に不動産の売却や相続といった大きな手続きにおいて、この制度の活用が欠かせない場面もあります。

ただし、制度の利用にはメリットだけでなく、「家庭裁判所の監視が入る」、「一度始めたらやめられない」などの負担もあります。手続きも簡単ではないため、利用を検討する際は専門家に相談し、本人にとって最適な支援の形を選ぶことが大切です

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