任意後見制度とは? 制度の概要や法定後見との違い、発効までの流れなどの基本を解説

高齢化が進むなかで、「自分が認知症になったら生活はどうなるのか」「不動産や預貯金の管理が心配になってきた」という不安を抱える方は少なくありません。特にご家族がいない方や、お子様が遠方に住んでいる方などは、何か事前に対策したいと考える機会も多いでしょう。

そういった老後の不安を抱える方の選択肢のひとつとして注目されているのが任意後見制度です。任意後見は、元気なうちに信頼できる人を自分で選び、将来の財産管理や生活支援を委ねることができる制度です。しかし、誰にでもおすすめできるものではなく、長期に及ぶ契約ゆえのメリット・デメリットも存在します。

本記事では、制度の概要や法定後見との違い、メリット・デメリット、手続きの流れなど、任意後見制度の基本を解説します。

そもそも「後見」とは?

後見は、法律上では「成年後見」や「未成年後見」という言葉のなかに使われています。これらの制度は、判断能力が不十分で法律行為を単独ですることができない認知症の方や精神障害者・知的障害者、未成年者などのために、家庭裁判所が後見人を選任し、代わりに財産管理や法律手続を行わせる仕組みです。

一般的には、認知症になった高齢者のために成年後見人が選任される事例がイメージしやすいでしょう。

成年後見人は、認知症になった本人の財産を管理し、施設の入居契約や病院への入院手続、さらには本人が相続した遺産についての遺産分割協議への参加や、本人名義の不動産の売却といった法律行為を行います。このような業務を通して、本人の財産を守り、本人が法律上の不利益を受けないよう支援するのです。

しかし、従来の成年後見制度(以下、法定後見制度といいます。)には、以下のようなデメリットがありました。

  • 成年後見人は家庭裁判所が選ぶため、誰が選任されるかわからない
  • 成年後見人の業務は法律で決められており、事例に合わせてアレンジすることができない
  • 成年後見が始まるのは本人が認知症になった後なので、本人の意思を反映するのは難しい

このようなデメリットを解消し、より本人の意思を反映した後見制度として平成12年(2000年)に開始したのが、今回紹介する「任意後見制度」です。

任意後見制度とは?

任意後見制度とは、将来自分の判断能力が不十分になったときに備えて、信頼できる人(任意後見人)に生活や財産の管理を委ねることです。契約は本人が元気なうちに締結しておき、判断能力が落ちて後見人が必要になった段階で効力が発生(=後見が開始)します。

法律的には「任意後見契約に関する法律」に基づく制度で、公証役場で「任意後見契約公正証書」を作成することによって成立します。

法定後見と比較すると、任意後見制度の大きな特徴は、以下のとおりです。

  • 後見人を自分で決めることができる
    → 任意後見では、将来自分の後見人になってほしい人との間で任意後見契約を締結します。これにより、家庭裁判所が後見人を選ぶ法定後見とは違い、自分で後見人を選ぶことができます。
  • 後見人の業務範囲を、契約の範囲内である程度自由に定めることができる
    → 法定後見では後見人の業務範囲や権限は法律で定められていますが、任意後見では後見人の業務範囲や権限を契約のなかで定めることができます。
  • 元気なうちに準備をすることで、安心感を得られる
    → 法定後見は本人の判断能力が低下してから始まりますが、任意後見では本人の判断能力がある間に契約を締結して準備を進めます。これにより、本人が安心感を得ることができます。

任意後見のデメリット

このような特徴のある任意後見制度ですが、法定後見にはないデメリットもあります。

  • 後見人に加えて、任意後見監督人が必ず選任される
    → 後見制度では、後見人を監視する「後見監督人」という役職があります。法定後見では後見監督人が選任されるかどうかは家庭裁判所の裁量によりますが、任意後見では、必ず任意後見監督人が選任されます。
    これにより、後見人が2人いるような状態になるため、2人分の報酬が発生し、費用がかかります。
    ※ ただし、任意後見人の報酬は契約のなかで自由に決められるため、無報酬とすることもできます。
  • 後見人に取消権がない
    → 法定後見では、本人が誤ってした契約を後から取り消す取消権が後見人にあります。しかし、任意後見では、取消権はありません。
  • 元気なうちにしか始められない
    → 任意後見契約は、本人の判断能力が十分にあるうちに締結しなければなりません。本人の判断能力が低下した後には、法定後見の利用を検討します。
  • 費用が比較的に高額である
    → 任意後見契約は内容が複雑であり、多くのケースで専門家が契約に関与します。その際にかかる専門家報酬は、通常、法定後見を始める場合の申立てにかかる専門家報酬よりも高額になる傾向にあります。

このようなデメリットもありますが、必要な方にはとても便利な制度です。

任意後見はどんな人に合っている?

任意後見が適するのは、以下のようなケースです。

  • 知らない人に財産を管理されることに抵抗があり、絶対に家族を後見人にしたい
    → 任意後見制度の一番のメリットは、自分が元気なうちに将来の後見人を選べることです(法定後見では、家族が後見人になれるかどうかは、家庭裁判所の判断にゆだねられます)。
  • 将来に対する不安が大きく、心理的に辛い日々を過ごしている
    → 頼れる家族等が周囲にいない高齢者の方などは、将来の自分の生活に不安を抱えていることも多いでしょう。そのような方が事前に任意後見契約を締結しておくことで、自分の将来に対する備えができ、安心感を得られます。
  • 自分の生活や介護の方針、財産管理のやり方について、希望がある
    → 任意後見では、後見人の業務の方向性を定めたり、後見人の権限に制限を加えたりと、契約の内容を柔軟に調整することができます。また、葬儀の希望についても契約書に記載できます(法定後見では、後見人の業務範囲は法律で定められています)。

このように、法定後見のデメリットを避けたい方や、任意後見の柔軟性を活用したい方は、任意後見の検討をおすすめします。

任意後見の手続きの流れ

それでは、実際に任意後見制度を利用したい場合、どのような流れで手続きを行うのでしょうか。

具体的な流れは以下のとおりです。

1:契約内容の検討

まずは、任意後見契約の内容を検討します。

【検討する内容】
・誰を任意後見人にするか(家族や弁護士、司法書士などの専門家を選ぶ方が多いです。)
・任意後見人の権限をどうするか
・任意後見人の報酬をどうするか
・介護や財産管理の方針
・葬儀の方針
・任意後見を補充する他の契約を締結するかどうか(財産管理契約、死後事務委任契約など)
・遺言書を残すかどうか

このように、任意後見契約を締結する前に、全体の設計をし、契約の内容を検討していきます。細やかな事項もあるので、任意後見の実務経験のある専門家に相談しながら進めると安心です。

補足 ~任意後見人になれない人~

任意後見では、後見人になる人を自由に選ぶことができます。しかし、一定の欠格事由に該当する人は、任意後見人になることはできません。

具体的には、以下のような事由が欠格事由にあたります。

・未成年者
・過去に家庭裁判所で法定代理人等を解任された者
・破産者
・本人に対して訴訟をした者またはその配偶者や直系血族
・行方不明の者
・その他、後見人になるには不適当だと家庭裁判所が認めた者

2:任意後見契約の締結 → 登記

契約の内容が整えば、任意後見人となる予定の人と一緒に公証役場へ行き、「任意後見契約公正証書」を作成します。

公正証書とは、国の役人である公証人が内容を確認して公文書化した契約書のことです。任意後見契約では、契約書は必ず公正証書で作成する必要があります。

なお、公正証書の作成にかかる費用は以下のとおりです。

・公証人の手数料:11,000円
・登記嘱託費用:1,400円
・登記所への印紙代:2,600円
※ 契約内容の検討や任意後見人への就任を専門家に依頼した場合、その費用も発生します。

契約が成立すると、契約内容が法務局に登録(登記)されます。これで任意後見契約は無事、成立です。

3:任意後見監督人の選任申立て → 任意後見契約の発効

その後、本人の判断能力が低下したら、家庭裁判所に任意後見監督人の選任を申し立てます。申立ては本人や任意後見人となる人、本人の四親等内の親族が行います。

この申立てにより任意後見監督人が選任されると、任意後見人の業務が始まります(任意後見契約の発効)。任意後見人は、任意後見監督人や家庭裁判所の監督を受けながら、本人の財産管理をし、生活を支援します。

4:任意後見の終了

任意後見は本人または任意後見人の死亡や破産によって終了します(通常は、本人の死亡によって終了します)。

契約が終了すると、任意後見人は本人の財産を相続人等に引き継ぎます。また、死後事務委任契約も締結していた場合、葬儀等の死後事務も行います。

補足 ~任意後見は途中でやめることもできる?~

任意後見を途中でやめたくなった場合に必要な手続きは、契約が発効しているか否かで変わります。

発効前:発効前であれば、いつでも契約の解除をすることができます。ただし、契約書は公正証書で作成されているため、解除の際にも公証役場に赴いて公証人の認証を得る必要があります。

発効後:発効後は、正当な事由がある場合にのみ、家庭裁判所の許可を得て契約を解除することができます。自由に解約することはできません。解約の請求ができるのは、本人・本人の親族・任意後見監督人・検察官です。

まとめ

任意後見制度は、将来の判断能力の低下に備えて、自分の意思を尊重した支援を実現できる制度です。法定後見と異なり、自ら後見人を選べる点が大きな特徴ですが、発効には家庭裁判所の関与や監督人の費用が必要になるなどの注意点もあります。

老後に安心して生活するためにも、気になった方は早めに対策を始め、必要に応じて専門家に相談しながら老後に備えましょう。

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