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成年後見制度のよくある誤解|財産をとられる? 何でもしてくれる? 正しく理解するために

成年後見制度のよくある誤解|財産をとられる? 何でもしてくれる? 正しく理解するために

認知症などが原因で親の財産管理や契約行為に不安を感じ、「成年後見制度を利用すべきか迷っている」という方は多いでしょう。しかし、いざ調べてみると「成年後見を使うとお金の自由がなくなる」「親の代わりに何もできなくなる」といった声を耳にして、不安を抱く方も少なくありません。

とはいえ、そういった意見がすべて正しいとは限らず、そのような意見のなかには、成年後見制度の法律上の仕組みを誤解しているものも少なくありません。

この記事では、成年後見制度の基本的な仕組みや誤解が起きる理由を解説します。制度を正しく理解するための一助となれば幸いです。

そもそも成年後見制度とは?

成年後見制度とは、判断能力が不十分な方(=成年被後見人、または本人)に代わって、家庭裁判所が選任する成年後見人が、財産管理や法律手続きを支援・代行する制度です。

成年後見人は、常に成年被後見人の利益になるよう業務を行わなければなりません。また、成年後見人は、常に家庭裁判所の監視下におかれます。

具体的にイメージしてみましょう。寝たきりになってしまい入院している認知症患者・Aさんをイメージしてください。Aさんは、自分で通帳や実印などの貴重品を管理することができません。さらには、以前使っていたスマートフォンの料金や、自宅の水道光熱費も引き落とされ続けていますし、病院への入院手続きにも困るでしょう。

このような場合、成年後見人がいれば、貴重品の管理や契約の解除、手続きの代行(もしくは代行の手配)などが可能です。

また、もしAさんに未婚の兄弟姉妹がいて、その方が亡くなり、Aさんが相続人になったとしましょう。この場合、Aさんはその兄弟姉妹の遺産分割協議に参加する権利を有しますが、成年後見人がいれば、Aさんの代わりに遺産分割協議をすることも可能です。そのほか、Aさんの財産を詐欺等の犯罪から守ることもできます。

とはいえ、判断能力が少しでも下がれば必ず成年後見が始まるのではなく、必要に応じて、また、本人の判断能力の低下の度合いによって、補助・保佐・成年後見の3類型に分かれています。

この記事では、このなかでもっとも後見人の権限が大きい成年後見類型を前提として解説していきます。

成年後見制度のよくある5つの誤解

それでは、そんな成年後見制度についてよくある誤解を5つご紹介します。

誤解1 後見人がいると財産が使えなくなる

1つ目の誤解は、「後見人がいると財産が使えなくなる」というものです。

成年後見制度を利用すると、本人の資産や収入・支出については成年後見人が管理することとなります。さらには定期的に家庭裁判所の検査が入るようになり、特に大きな支出には家庭裁判所の許可が必要となることもあります。

このような状況から、「後見人がいると本人や家族がお金を使えなくなる」「後見人や裁判所は無駄遣いを一切許さない」という印象を受ける方も少なくありません。

しかし、実際には、成年後見人は極力本人の意思を推測し、その意思に従った行動をとるよう求められますそのために必要な出費であれば、一般的には無駄遣いと思われるような支出をすることもあるのです。

例えば、認知症になる前から定期的に孫にお小遣いをあげていたら、後見人がついたあとであっても、後見人や裁判所の判断でお小遣いをあげ続けることもあります。ただし、一般常識に照らしてあまりに高額であったり、本人の資産が不足していたりすると、取りやめとなることもあるので、必ず続けられるとは断言できないことに注意が必要です。

また、本人が家族を扶養していたような場合、家族の生活費を負担し続けることも可能です。この場合においても、あまりにも常識に即しない負担(例:ギャンブルのために多額の預金を引き出す)や、家族への贈与と考えられるような負担(例:高額な宝石を買ってあげる)は認められないこともあります。

このように、成年後見人の目的は「本人の資産を守ること」、そして「本人の意思を尊重すること」です。この2つの目的をバランスよく両立するため適切な財産管理をするのであって、「無駄な支出を一切認めない」「本人以外の家族のための出費はできなくなる」という認識は誤りです

誤解2 後見人が財産を勝手に使ってしまう

これは誤解というより不安というべきでしょうが、2つ目は「後見人が財産を勝手に使ってしまう」というものです。

後見人が本人の財産を勝手に使うことは決してあってはならないことですが、このような横領事件は定期的に報道されます。家庭裁判所が公表している資料によると、平成23年から令和6年の統計データでは、不正件数・被害額ともに平成26年にピークを迎え、それ以降は減少傾向にあり、近年は年間190件ほど・被害額8億円ほどとなっています(なお、後見制度の利用者は20万人以上です)。

また、この資料で注目すべき点は、専門職後見人よりも、専門職以外の後見人による被害が著しく多くなっている点です。

専門職後見人とは、弁護士や司法書士、行政書士、社会福祉士といった、「仕事として後見人をしている人」です。そして、専門職以外の後見人とは、家族や親族、知人など、「本人に近しい人として後見人をしている人」です。

なぜ専門職後見人による不正が比較的少なくなっているのかというと、知識量や職業的責任が大きいのはもちろんですが、専門職後見人は通常、裁判所以外の機関からも指導監督を受けています。

例えば私たち司法書士は「リーガルサポート」という機関に登録していて、家庭裁判所への報告のほか、リーガルサポートへの定期報告も義務づけられています。また、リーガルサポートでは不正を防ぐために各支部が独自のルールも定めていて、私が所属している大阪支部では、本人のお金を必要以上に現金化して事務所に保管している司法書士は、不正のリスクが高いとみなし、監視を強化しています。

このような取り組みがあるため、専門職後見人は、不正が難しい環境で職務にあたることができているのです。

成年後見人が本人の財産を勝手に使ってしまうような事態はあってはならないことで、発覚すれば後見人を解任されるほか、国家資格者であればその資格の停止やはく奪等の重大な処分につながります。犯罪がなくなることはないかもしれませんが、「後見人はみんな好き勝手に本人の財産を使っている」という認識は大きな誤りといえるでしょう。

家族の財産も後見人に筒抜け?

この誤解に近いもので、「後見人は本人と生活をともにする家族の財産も調べることができる」という誤解もあります。

しかし実際には、後見人には本人名義の財産を管理する権限しかなく、家族の財産を管理することはもちろん、調べることもできません。

誤解3 誰でも後見人になれる/家族は後見人になれない

3つ目の誤解は、「誰でも後見人になれる」、そして反対の「家族は後見人になれない」というものです。

実際のところ、後見人はどのように決まるのでしょうか?

後見制度を利用するには、まず、家庭裁判所に後見人選任の申立てを行います。この際、以下の2つのやり方があります(ただし、任意後見による場合を除きます)。

  • 後見人候補者を決めておく
  • 後見人の選任を家庭裁判所に一任する

①は、家族等の近しい人が後見人になりたいと希望する場合や、すでに依頼している司法書士・弁護士等の専門家にそのまま後見人になってほしい場合に、「この人を後見人にしてください」と家庭裁判所に申し出るケースです。

この場合、家庭裁判所は面接等の方法により候補者を審査し、後見人としてふさわしいと判断すれば、後見人に選任します。ただし、管理する財産が多額な場合や、専門家の支援が必要と判断した場合には、後見人を監督する後見監督人が選任されることもあります。

②は、候補者を特に定めないケースです。候補者を定めなければ、家庭裁判所は、専門職後見人のなかから後見人を選任します。

このように、後見人には誰でもなれるというわけではなく、家庭裁判所が審査をしたうえで適任であると考えなければ選任されません。また、家族は後見人になれないという意見も誤解であり、家族であっても、家庭裁判所に選任されれば後見人になることができます

どちらにせよ、最終的に後見人を決定するのは家庭裁判所であることに注意が必要です。

誤解4 後見人は何でもしてくれる

4つ目は、「後見人は本人の代わりのようなものだから何でもしてくれる」という誤解です。

しかし、後見人の職務の範囲は財産の管理や法律行為の代理に限られていて、実際には、本人のご家族はもちろん、介護専門職の方や医療従事者の方と協力して本人の生活を支援していきます

具体的には、後見人は施設の入居契約の代理はできますが、入居の際の身元保証人になることはできません。また、本人が受ける医療行為の同意や、延命措置に対する同意等もできません。

そして、買い物への付き添いや介助行為といった、日常の生活への身体的な支援(事実行為)をすることもできません(ただし、後見人の意向により、本人の買い物へ付き添ったり、一緒に散歩をしたりといったこともありますが、これは後見人としてというよりも個人として行うような感覚に近いです)。

誤解5 目的を果たしたら後見は終わる

最後の誤解は、「目的を果たせば後見は終わる」というものです。

後見制度の利用を検討するきっかけとして、遺産分割や自宅の売却といった特定の行為を目的とすることも少なくありません。このような場合に、「遺産分割が終われば当然に後見は終了する」と考える人も多くいます。

しかし実際には、後見は、本人の判断能力が回復するか、本人が亡くなるまで終了しません。認知症は回復が難しいため、通常、後見は本人が亡くなるまで終了しないのです。当初の目的が終われば後見も終わると誤解したまま後見制度を利用してしまうと後で取り消すことはできないため、申立ての前によく検討するようにしましょう

一度後見人をつけると本人が生きている限りずっと後見が続くという点は、特に重要なことです。このことを理解しないまま家族の意向で後見人を選任してしまい、本人の意思に反する事態に発展することも起こり得ます。

成年後見制度を利用を検討する際には、事前に専門家へ相談することをおすすめします。

まとめ

成年後見人は強い権限をもつ立場であり、そのために様々な誤解も起こり得ます。その誤解のなかには一部完全に誤りとはいえないものもある一方、制度自体を誤って捉えているものも少なくありません。

成年後見制度を必要とする方が適切な保護を受けられるようにするには、家族や周囲の人々が正しい知識を身に着け、このような誤解や不安を解消することが大切です。また、家族信託や任意後見契約といった他の生前対策制度を利用するにあたっても、類似点がある成年後見制度を正しく理解しておくことは重要といえるでしょう。

成年後見制度の利用に不安がある方は、ぜひ一度正しい知識をもった専門家にご相談ください。

この記事を書いた人
ひろはた司法書士事務所 司法書士 廣畑 優のプロフィール写真

執筆・監修:司法書士 廣畑 優(ひろはた司法書士事務所代表)

大阪市に事務所を構える司法書士/相続・遺言・家族信託・成年後見など、家族や財産に関する手続きを中心に幅広く対応

1級ファイナンシャル・プランナー(FP)資格も保有し、法務とお金の両面からご家庭をサポート/「わかりやすく、誠実に」をモットーに、安心して相談できる身近な専門家を目指しています。

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