相続人不存在とは? 財産が国庫に入るまでの流れや対策を紹介

相続人不存在とは文字どおり、被相続人(亡くなった方)に相続人が存在しない状態を指します。

相続人がいない場合、そのままでは財産を引き継ぐ人がいないため、最終的にその財産は国のものとなる(国庫に帰属する)決まりになっています。ただし、それまでの過程には特別な手続きが必要です。

また、自分に相続人がいない場合でも、事前に遺言や生前贈与などの対策を取ることで、自分の財産を希望する相手に遺すことができます

今回は、相続人不存在のケースでの財産処理の流れや、どのような対策が取れるのかについて詳しく解説します。

そもそも相続人不存在とは?

相続人不存在とは、法定相続人が誰もいない状況を指します。

法定相続人とは、民法で決められた相続人のことであり、配偶者や子ども、親、兄弟姉妹などの遺産を相続できる権利を持つ人々を指します。

通常、被相続人が亡くなると、その遺産は法定相続人や、遺言で指定された人(受遺者)が受け継ぎますが、以下のような場合には相続人不存在の状態になることがあります。

  • 法定相続人がいない(配偶者や子どもがおらず、親兄弟も既に亡くなっており、甥や姪もいない
  • 法定相続人が全員、相続放棄をした
  • 遺言書がない(遺言書があれば、たとえ相続人がいなくとも、遺言執行者が遺産承継の手続きをすることができます。)
  • 遺言書はあるが、包括受遺者がいない(相続人以外に財産や負債をすべて継がせると、包括受遺として相続と同様に扱われます。この場合、相続人不存在にはなりません。)

このような場合、相続人がいないため、遺産は特別な手続きのもとで処理されることになります。

相続人がいない場合の財産処理の手続き

相続人不存在の状態であっても、被相続人の財産をそのまま放置するわけにはいきません。

この場合、法律上、以下のような手順を踏んで財産の処理が進められます。

① 家庭裁判所への「相続財産清算人」選任の申立て

相続人がいない場合、利害関係者や検察官が家庭裁判所に対して「相続財産清算人」の選任を申し立てます。利害関係者とは、被相続人に借金をしている債権者や、被相続人の不動産を管理している人などです。

家庭裁判所が相続財産清算人を選任すると、相続財産清算人が相続財産を管理するようになります。相続財産清算人は、まず被相続人の財産を調査し、必要に応じて債務の弁済や不動産の処分を行います。そして最終的に相続財産が国庫に帰属するまで、必要な手続きを取るのです。

(相続財産清算人について、詳しくは後述します。)

② 相続人の探索

相続財産清算人が選任されると、家庭裁判所は、6か月以上の期間を定めて公告を行い、相続人が名乗りでないかどうかの確認をします。

相続財産清算人が選任されている以上、戸籍などから相続人がいないことは確認されているでしょうが、最終確認としてこのような機会が設けられています。

③ 債権者や受遺者への公告

相続人への公告のほかに、家庭裁判所は、2か月以上の期間を定めて、債権者や受遺者への公告を行います。これは、被相続人に対して債権を持っている人や、遺言によって財産を受け取る権利がある人に対して、名乗り出る機会を与えるものです。

公告は通常、裁判所の前に掲示する方法と官報公告(国が発行する官報という新聞のようなものに掲載する方法)が併せて取られますが、被相続人にお金を貸している大手金融機関など以外の個人がこのような公告を見て名乗り出ることはほとんどありません。

④ 特別縁故者への財産分与

相続人がおらず、借金の取り立てなどもなかった場合、家庭裁判所は「特別縁故者」と呼ばれる人物に財産を分与することができます。特別縁故者とは、亡くなった人と生前に特別な関係を持っていた人(例えば、内縁の配偶者や、老後の面倒を見ていた人物など)です。

特別縁故者として財産の分与を希望する人は、家庭裁判所に申立てを行う必要があります。この申立てができる期間は、②や③の公告が終わった後、3か月間と定められています。

⑤ 国庫への帰属

債権者や受遺者、特別縁故者がいない場合、もしくはそれらの人たちへの清算手続が終わった後、残った財産は最終的に国庫に帰属します。この際、相続財産清算人への報酬も清算されます。

相続財産清算人の役割とは?

以上のような家庭で財産の清算が行われる間、相続財産清算人は、次のような仕事をしています。

  • 相続財産を調査し、その価値が下がらないように保全する。
  • 被相続人の債権者に対し、債務を弁済する(生前に支払いが残っていたローンや口座凍結後の生活費の支払いなど)。
  • 相続人や特別縁故者を探す。
  • 必要に応じて、不動産の処分など、財産の換価を行う。

相続財産は通常、相続財産清算人の判断に基づいて管理されますが、売却や廃棄などが必要となった場合には、家庭裁判所の許可を経て行われます。

相続人がいない場合に取れる3つの対策

このように、相続人がいないまま何の対策もせずに亡くなってしまった場合、大掛かりな手続が必要となってしまいます

そんな手続を避けたい場合や、自分の財産を国に渡したくない場合、次のような対策を取ることができます。

遺言書の作成

遺言書を作成することで、特定の人や団体に財産を遺すことが可能です。

遺言書には、自分が誰にどのような財産を相続させたいかを明記することができ、法定相続人がいない場合でも、自分の意思を確実に反映することができます。

メリット
・相続人がいなくとも、財産を個人や団体に遺贈(寄附)できる。
・信頼できる人を遺言執行者に指定して、自分の遺産の処理を任せられる。

デメリット
・正しい形式で遺言書を作らなければ、無効になってしまうこともある。
・遺贈先や遺贈の方法によっては、想定外の税金がかかってしまう恐れがある。
・専門家へ相談したり、公正証書遺言を選んだりすると、費用がかかる。

なお、相続人のいない人が遺言書を書く場合は、遺言執行者を指定しておくとその後の手続がスムーズです。

生前贈与

生前に財産を希望する相手に贈与する生前贈与も、効果的な対策です。

生前贈与では、自分が生きている間に財産を渡すため、相続の問題を事前に回避できます。

メリット
・自分が元気なうちに、確実に相手に財産を渡すことができる。
・相続人不存在の不安を生きているうちに解消できる。

デメリット
・通常、相続と比べて高額な贈与税や登録免許税がかかる。
・譲渡所得税がかかることがある。
・一度あげてしまうと考えなおせない。

信託の活用(遺言信託)

自分の財産を管理・運用するために信託を利用することも一つの方法です。

信託契約を結ぶことで、信頼できる第三者が財産を管理し、特定の目的に従って財産を分配することができます。

メリット
・複雑な信託契約を活用することで、細かい部分まで自分の思い通りに財産を譲ることができる。
・うまくすれば節税も可能

デメリット
・遺言や家族信託と比べて利用者が少なく、詳しい専門家もあまりいない。
・専門的な知識が必要となり、専門家に依頼すると高額な費用がかかる。

補足 ~死後事務委任契約

財産の話とは別になりますが、自分が亡くなったときの葬儀や病院代の支払い、施設の解約手続きなどを任せるために、信頼できる知人や友人、専門家などと「死後事務委任契約」を結んでおくこともおすすめします

死後事務委任契約とは、文字通り「死後に残った事務手続きをお願いする契約」です。

通常、委任契約は委任した側・された側のどちらかが死亡すれば効果がなくなってしまいますが、この契約は例外的に認められています。

ただし、実際に委任された側が手続きをするときには当事者が亡くなってしまっているので、効果を明確にするためにも公正証書で契約書を作成することをおすすめします。

まとめ

相続人がいない場合、何の対策も取らないと、財産は国庫に帰属します。そしてその過程で、家庭裁判所や相続財産清算人など、多くの第三者が関わることになります。

しかし、適切な対策を取ることで、自分の財産を希望する人や団体に財産を遺すことが可能です。遺言書の作成や生前贈与、信託の活用など、自分の状況に合わせた対策を講じましょう。

自分は対策が必要な状況なのか? どんなことができるのか? といった不安がある場合には、専門家に相談しながら、早めに見通しを立てておくことをおすすめします。

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