相続の場面では、相続人のなかに未成年者が含まれる場面も珍しくありません。しかし、日本の法律では、未成年者を保護するために、未成年者の法律行為が制限されています。そのため、遺産分割協議などの重要な相続手続きにおいては、未成年者自身が参加できない場合が生じるのです。
これは単に「親が代わりにすればいい」というものではなく、親も相続人である場合には利益相反が問題となり、家庭裁判所で特別代理人を選任しなければならないケースもあります。
この記事では、相続人に未成年者がいるケースにおける基本的な対応や、特別代理人の役割についてわかりやすく解説します。
未成年者による相続手続きの考え方
18歳未満の未成年者については、民法第4条と第5条により、法律行為をするには法定代理人(=親権者、未成年後見人)の同意を得るか、または法定代理人が代理して法律行為をしなければならないと定められています。これは、判断能力や社会経験に乏しい未成年者を保護するための決まりです(ただし、未成年者が単に利益を得るだけの契約(贈与を受ける場合など)は、未成年者自身ですることができます)。
例えば、携帯電話の契約をする場面を想像してください。子ども名義の携帯電話を契約するには、親が代わりに契約手続きを行います。このとき、親は法定代理人として、子どもの契約行為を代理しているのです。
日常生活ではこれで十分ですが、相続の場面では問題が生じることがあります。
相続で発生する「利益相反」
具体例を挙げて考えてみましょう。父Aさんが亡くなり、その妻Bさんと未成年の子Cさんが相続人になったとします。Aさんの遺産には自宅や現金がありますが、Cさんがまだ幼いこともあり、Bさんは、「自宅は自分が1人で相続したい」と考えました。
この場合、自宅の名義をBさんにするには、BさんとCさんで遺産分割をする必要があります。しかし、Cさんの法定代理人はBさんであり、「未成年者の法律手続きは法定代理人が行う」という原則を守ると、Bさんは1人で、自分とCさんの両方の立場に立って、遺産分割協議をしなければなりません。そうなると、Bさんが独断ですべての遺産を相続することも可能となり、Cさんの権利が十分に保護されません。
このように、親と子どもの利害が衝突してしまう状況を、利益相反といいます。利益相反が生じるケースでは、たとえBさんが子どものことを考えて遺産分割協議をしたとしても、その協議は法律上無効となってしまいます。
要するに、「未成年者とその法定相続人がどちらも相続人となる」ようなケースで利益相反が起こり、遺産分割協議ができなくなってしまうのです。
このような場合、どうすればよいのでしょうか?
例外として、以下のような場面では、子どもと親がどちらも相続人になっていたとしても、利益相反の問題は生じません。
- 親が相続放棄をした場合
→ 相続放棄をすると、初めから相続人ではなかったものとみなされます。よって、親は子どもの法定代理人として、遺産分割協議に参加することができます。
※ なお、親と子どもが同時に相続放棄をする場合、親は子どもの放棄を代理できます。ただし、子どもだけが相続放棄をする場合には、特別代理人の選任が必要です。 - 遺産分割をしない場合
→ 遺産分割をせずに、法定相続分どおりに財産を分けることも可能です。この場合には、親と子どもで話し合う必要がないため、利益相反の問題は生じません。
また、子どもが18歳になるまで待ってから遺産分割をする場合にも、利益相反の問題は生じません。
利益相反が起こる場合に登場する「特別代理人」
遺産分割の場面で利益相反が生じる場合には、家庭裁判所に申立てを行い、未成年者のために特別代理人を選任してもらいます。
特別代理人とは、未成年者とその親権者(または、成年被後見人と成年後見人)の利害が衝突したときに、未成年者(や成年被後見人)の代わりに法律行為を行う人です。特別代理人には法定代理人以外の第三者が選任され、その特定の法律行為が終われば任務は終了します。
遺産分割協議のために特別代理人が選任された場合には、その特別代理人が遺産分割協議に参加し、協議書に署名捺印をして、印鑑証明書を提出することになります。
では、そんな特別代理人の要件や、選任の流れをみていきましょう。
特別代理人の要件
特別代理人には特に資格はなく、相続に関わらない第三者であれば誰でも構いません。通常は未成年者の親族や親権者の知人・友人、そのほか弁護士・司法書士等の専門家が選任されます。
ただし、最終的に誰を特別代理人にするかを決めるのは家庭裁判所です。家庭裁判所は、「未成年者の利益をきちんと保護できるか」「特別代理人として責任をもって職務を遂行できるか」「未成年者との利害関係はないか」等を考慮して特別代理人を決めます。希望した人が必ず選ばれるわけではないので、注意しましょう。
特別代理人選任の流れ
次に、特別代理人が選任されるまでの流れを紹介します。
その1 特別代理人の候補者を決める
まずは、特別代理人の候補者を決めます。
先述のとおり、特別代理人には特に資格はなく、その相続に関わりのない人であれば、親族や知人・友人を候補者にすることができます(実際に、祖父母や叔父叔母が候補者となることも多いです)。
候補者となる人がいなければ、裁判所が用意した弁護士等の専門家が特別代理人となります。
その2 必要書類をそろえて申立ての準備をする
候補者が決まれば、次に必要書類を用意します。
主な必要書類は以下のとおりです。
その3 家庭裁判所に申し立てる
書類が準備できたら、家庭裁判所に提出し、申立てをします。
申立てをするのは一般的には親権者であり、申立先となる家庭裁判所は、未成年者の住所地を管轄する家庭裁判所です。
申立てが完了すると、家庭裁判所で書類の審査が行われます。場合によっては裁判所から質問されたり追加書類を求められたりもするので、すぐに対応できるようにしておきましょう。
その後、何事もなければ1か月ほどで特別代理人選任審判書が届きます。この審判書は相続登記や銀行口座の解約といった相続手続きで必要となるので、大切に保管しましょう。
まとめ
相続人に未成年者が含まれる場合、親がそのまま代理することは利益相反の問題から認められないことがあります。その場合は、家庭裁判所に特別代理人の選任を申し立て、未成年者の利益を守りながら相続手続きを進めなければなりません。
このように、相続に未成年者が関わるケースでは、通常よりも手続きが複雑になり、時間もかかります。また、手続きを間違えてしまうと遺産分割協議が無効になり、さらに時間がかかりかねません。
スムーズに進めるためには、早めに家庭裁判所への申立てを検討するとともに、司法書士や弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。

執筆・監修:司法書士 廣畑 優(ひろはた司法書士事務所代表)
大阪市に事務所を構える司法書士/相続・遺言・家族信託・成年後見など、家族や財産に関する手続きを中心に幅広く対応
1級ファイナンシャル・プランナー(FP)資格も保有し、法務とお金の両面からご家庭をサポート/「わかりやすく、誠実に」をモットーに、安心して相談できる身近な専門家を目指しています。
