特別寄与料とは、亡くなった人(被相続人)の介護等を長年行っていた相続人以外の親族が、相続財産に対して一定の権利を主張するための制度です。
似たような制度に寄与分がありますが、寄与分は、相続人でなければ請求することができません。しかし現実には、相続人以外の親族(長男の妻など)が介護等を担っていることも多く、「相続人でなければ遺産をもらえない」という従来の仕組みでは不平等なケースがありました。この不公平を是正するために2019年(令和元年)7月にできた制度が特別寄与料なのです。
この記事では、特別寄与料の概要や請求できる要件、計算方法や請求方法などをわかりやすく解説します。
特別寄与料とは?
制度の概要・制度ができた背景
2019年(令和元年)7月に、民法の大改正が行われました。このときに新設された制度が、今回紹介する特別寄与料(民法1050条)です。
特別寄与料とは、被相続人に対して無償で療養介護等を行うことで財産の維持や増加に貢献した被相続人の親族(ただし、相続人を除く)が、相続人に対して、金銭の支払いを請求できる制度です。
この制度の特徴は、相続人以外の親族が金銭を請求できるという点です。
※ 親族とは、配偶者および六親等内の血族と三親等内の姻族を指します。
これまでにも、介護を行った人が最低限の相続分を確保できるようにするための制度として、「寄与分」という制度がありました。しかし寄与分は相続人にしか認められず、相続人以外の親族は、たとえ何十年も介護をしていた場合であっても、相続の権利を主張することはできませんでした。
このような状況を解消するために生まれたのが「特別寄与料」です。この制度の誕生により、献身的に介護や看護を行った親族の努力が、法的にも認められるようになったのです。
寄与分との違い
こういった背景からわかるように、特別寄与料と寄与分は、「権利者が異なる」という点以外とてもよく似た制度です。
しかし細かい違いもあるので、以下にその違いをまとめます。
特別寄与料を請求する要件
先述のとおり、特別寄与料を請求できるのは、相続人以外の親族(配偶者・六親等内の血族・三親等内の姻族)に限られます。
ただし、「相続放棄・相続欠格・相続人廃除によって相続人ではなくなった人」や「内縁の配偶者」は請求することができませんので、注意が必要です。
そして、特別寄与料の請求が認められるには、以下の要件をすべて満たす必要があります。
要件1:被相続人に対して労務の提供をしたこと
民法上、特別寄与料を請求するには、「療養看護その他の労務(=特別の寄与)」を提供していなければならないと定められています。
具体的には、介護や家事、事業の手伝いなどが含まれます。寄与分とは考え方が違い、金銭的援助をしていたというだけでは特別の寄与とはみなされないため、注意が必要です。
要件2:1の行為が無償であること
そして、特別寄与料を請求するには、1の行為が無償で行われている必要があります(お金の二重取りを防ぐため)。
とはいえ完全に無償でなければならないわけではなく、受け取っていた対価が通常の給料等と比べて著しく低額な場合には、特別の寄与として認められることもあります。
要件3:1の行為が「特別の寄与」といえること
これまで何度か「特別の寄与」という言葉が出てきましたが、具体的にどのような行為が特別の寄与と認められるのでしょうか。
特別の寄与とは、言い換えると「親族間で通常期待される程度を超えるような貢献」を指し、具体的には以下のような行為です。
- 長年にわたってほとんど毎日のように介護をしていたため、介護施設利用料を支払わずに済んだ
- 寝たきりや重度の認知症といった重い症状の被相続人を献身的に介護していたため、医療費を削減できた
- 被相続人の事業を無償で手伝っていたため、人件費を削減できた
ここでポイントとなるのが、「お金を節約できた」という点です。
民法1050条では、特別の寄与について、「被相続人の財産の維持又は増加」に貢献したことが要件として明記されています。よって、親族の行為によってお金を節約できたことが証明できなければ、特別の寄与とは認められないのです。
特別寄与料の計算方法
では、特別寄与料はどのように計算すればよいのでしょうか。
特別寄与料の額は法律で定められているわけではなく、個別具体的な事情に応じて判断されます。実際に法律でも、特別寄与料の額は「寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して」定めると規定されています(民法1050条)。
そのため、一律に「いくらだ」ということはできませんが、実務上、以下のような計算式を用いることが多いです。
【被相続人の介護や看護をしていた場合】
特別寄与料の目安 = 介護等をした日数 × 報酬相当額 × 裁量割合
報酬相当額とは、プロに介護を頼んだ場合にかかるおおよその費用であり、およそ5,000~8,000円程度です。
そして裁量割合とは、「プロではない人が介護をしているのだから、報酬相当額を満額与えるのは不適切だ」という考えから設けられる割合であり、個別の事情にあわせておよそ0.5~0.9が乗じられます。
【被相続人の事業を手伝っていた場合】
特別寄与料 = 事業に従事していた年数 × 年収相当額 × (1-生活費控除割合)
生活費控除割合とは、給料が支払われない代わりに請求者が被相続人から受けていた生活費の援助を調整するための数値です。「事実上いくら損をしたか」を計算し、特別寄与料とするわけですね。
このように、特別寄与料の算定には一定の基準となる計算式があります。ただし、この式はあくまで参考であり、以下の点に注意が必要です。
- 特別寄与料の額は、遺贈された額を除く相続財産の額を超えることはできない
→ あくまで相続人間との公平を図る制度なので、いくら寄与行為をしていたとしても、相続財産の額を超えて請求することはできません。また、遺贈は特別寄与料に優先します。 - 裁判で実際に認められる金額は、算出額よりも低くなることが多い
→ 特別寄与料の請求者は被相続人と同居して利益を得ていることも多く、親族としての扶養義務を負うこともあります。よって、特別寄与料として認められる額は、この式による額よりも低くなることが多いです。 - 請求者と相続人が納得しているのであれば、この式は気にしなくともよい
→ この式は、あくまで話し合いでまとまらない場合などに用いられる目安の金額を求めるためのものです。よって、請求者と相続人が納得しているのであれば、いくらにしても問題ありません(ただし、後記「注意点」には気をつけてください)。
特別寄与料の請求方法
それでは、実際に特別寄与料を請求するときの手続きの流れを見ていきましょう。
ステップ1:相続人との話し合い
まずは、直接相続人と話し合う方法を検討します。
相続では、通常、相続人同士の話し合いである遺産分割協議が行われます(ただし、遺言書がある場合を除く)。
特別寄与料の請求者は相続人ではないため、この遺産分割協議に参加することはできません。しかし、特別寄与料はあくまで請求者と相続人の合意で定まるものなので、相続人全員と特別寄与料に関する合意ができている場合は、遺産分割協議書に特別寄与料に関する規定を盛り込むことも可能です(もちろん、別途合意書や覚書をつくっても構いません)。
特別寄与料に関する規定を書面で残す場合には、「相続人○○は、以下の遺産を相続する。ただし、そのなかから金○万円を特別寄与料として○○に支払う。」等と記載します。
このような話し合いがすぐに終わればよいのですが、お金の話になるので、なかなか意見がまとまらないこともあるでしょう。話し合いの際には、介護日誌やタイムカード、関係者とのメールや手紙等の記録、介護用品等の領収書など、客観的な資料を準備することをおすすめします。また、当事者だけでの話し合いでは揉めてしまいそうという懸念がある場合は、弁護士や司法書士などの中立的な第三者に同席してもらうよう依頼するという手段も考えられますので、相続人に連絡する前にできることはないかをよく検討しましょう。
なお、相続人と疎遠な場合や、相続に関してすでに争いごとがある場合には、当事者同士で話し合う前に、はじめから相続を専門とする弁護士に依頼することをおすすめします。
合意書は、公正証書で作成するケースもあります。
公正証書とは、国の機関である公証役場で作成される、正式な形の契約書です。特別寄与料に関する合意書を公正証書で作成しておくメリットは、万が一お金が支払われなかった場合であっても、すぐに強制執行(差押え)の手続きができるという点です。また、公証人の面前で本人確認や意思確認が行われるため、偽造や変造のリスクが低く、また、後から「そんな話は知らない」と言われづらい点も大きなメリットでしょう。
ただし、いきなり公正証書でつくろうとすると、相手方に「信用されていないのでは?」という疑念を抱かれる可能性もあります。提案の際には感情面の配慮も必要です。
ステップ2:家庭裁判所での調停
相続人との話し合いがまとまらない場合、または話合い自体が困難な場合には、家庭裁判所に対して調停を申し立てることができます。ただし調停の申立ては先述の期限(相続発生から1年間または相続開始および相続人を知った日から6か月間)内にしなければならないので、注意してください。
調停では、調停委員を間にはさみ、当事者間の協議が行われます。裁判手続きとなりますので、話合いのとき以上に「客観的な証拠」が重視されます。介護日誌やタイムカード、日々のレシート、関係者とのメールや手紙のやり取りといった「客観的な証拠」を残しておくようにしましょう。
ただし、調停はあくまで話し合いベースの手続きです。調停の場で当事者全員が納得しなければ、次の段階である審判手続きに移行します。
ステップ3:家庭裁判所での審判
最終段階である審判では、裁判官が客観的な立場で特別寄与料の額と支払方法を決定します。
前記の目安額の算出方法を根拠にしつつ、個別事情も考慮して額が決まるので、繰り返しとはなりますが、どのような証拠が有力であるかを判断できる弁護士に依頼して手続きを進めることをおすすめします。
注意点
最後に、特別寄与料を請求する場合の注意点をまとめます。
このように、特別寄与料は親族に認められた当然の権利ではありますが、実際に請求するとなると、様々なトラブルにつながりかねません。
そのようなトラブルを防ぐため、被相続人の生前に、生前贈与や遺言書の作成といった対策をしておくことをおすすめします。
まとめ
特別寄与料は、相続人以外の親族が被相続人の介護等をしていた場合に、相続人に対して請求できる金銭を指します。この制度ができたことにより親族間の不平が解消できるようになりましたが、金銭の請求という観点から揉め事につながりやすく、請求できる期限も短いため、利用する際には慎重にならなければならない制度でもあります。
請求はまず相続人との話し合いで行われ、話し合いがまとまらない場合やそもそも話し合いができない場合には、家庭裁判所での調停や審判を通して行われます。
裁判手続きでは客観的な証拠や主張の方法が重視されるため、弁護士等の専門家に相談することをおすすめします。また、話し合いで無事に解決した場合であっても、合意書の作成や相続税の申告に不安がある場合には、ぜひお気軽に司法書士や税理士等の専門家に相談してください。

執筆・監修:司法書士 廣畑 優(ひろはた司法書士事務所代表)
大阪市に事務所を構える司法書士/相続・遺言・家族信託・成年後見など、家族や財産に関する手続きを中心に幅広く対応
1級ファイナンシャル・プランナー(FP)資格も保有し、法務とお金の両面からご家庭をサポート/「わかりやすく、誠実に」をモットーに、安心して相談できる身近な専門家を目指しています。


