遺言書は、自身の財産をどう分配したいか、その意図は何かなどを後世に明確に伝えるための大切な手段です。遺言書があることで、遺産相続における争いを防ぎ、被相続人の希望に基づいたスムーズな手続きを進めることができます。
しかし、「ただ書けばいい」というものではなく、遺言書には様々な種類があり、それぞれに要件や効果が異なります。
今回は、遺言書の基本的な効果や種類について、詳しく解説します。
そもそも遺言書とは?
遺言書(法律用語では「遺言」と呼びます。)とは、自分の死後、自分の財産の分配(誰にどう分けたいか)や、その他の重要な事項について、指示を残すための文書です。その正しい作成方法は民法で決められており、遺言書が有効に作成されていれば、その指示が法律的に認められるので、相続人は基本的にその内容どおりに相続手続きを行うことになります。
遺言書には、財産の分配に関する指示のほか、「遺言執行者」の指定、残された子どもの親代わりとなる「未成年者後見人」の指定、特定の相続人を遺産分割から除外する「相続人の廃除」など、法律的に効果のあるさまざまな内容を含むことができます。
もちろん、ご家族へのメッセージを書いてもかまいません。
遺言書の効果とは?
それでは、遺言書には具体的にどのような効果があるのでしょうか?
まず、大きな効果として、亡くなった人(被相続人)の意思を明確に示すことで、遺産分割におけるトラブルを防ぐことができます。特に、相続人が複数いて話し合いが難しい場合や、特定の相続人に優先的に財産を相続させたい場合には、遺言書が有効に機能します。
また、遺言書には次のような効果もあります。
遺言書の種類とそれぞれの特徴・作り方
効果がわかったところで、次はこのような効果をもつ遺言書をどのように作ればいいのかを解説します。
遺言書には主に以下の3つの形式があります。それぞれに作り方が異なり、適切な形で作成しないと無効になってしまう可能性があります。以下では、それぞれの遺言書の特徴や作り方を解説します。
自筆証書遺言
自筆証書遺言は、遺言者が全文を自分の手で書く遺言書です。費用をかけず、手軽に作成できるのが特徴です。
作成する際に気をつけたいポイントは以下のとおりです。
- 本文や署名、日付は、すべて手書きで書く
財産目録(相続させたい財産のリスト)はパソコン等で作成して構いません。ただし、すべてのページに署名・捺印・契印が必要です。 - 作成した日付を書く
〇月吉日といった日付が曖昧な書き方では、遺言書が無効になる恐れがあります。 - 署名の後に捺印をし、複数枚に渡る場合は契印を押す
ハンコはどんなものでも構いませんが、実印を使うと万が一の紛争の際に本物の遺言書だと証明しやすく便利です。
自筆証書遺言のメリット・デメリットは、以下のとおりです。
メリット
・紙とペンとハンコがあれば、すぐに作成できる。
・お金がかからない。
・自分一人で内容を決められ、他の人には秘密にできる。
デメリット
・亡くなった後、実際に遺産を分配する前に、家庭裁判所による遺言の検認が必要となる。
・形式の不備により無効になる可能性がある。
・内容が法的に間違っており、自分の思った通りに財産が分配されない可能性がある。
・紛失の可能性/そもそも見つけてもらえない可能性がある。
・改ざんが容易
(なお、2020年の法改正により、自筆証書遺言を法務局で保管する制度が導入され、改ざんや紛失のリスクが軽減されました。)
私も自筆証書遺言を見ることはよくありますが、形式・内容に不備があり、相続人間の揉め事につながったり、相続人が余分な手数料を支払う必要があったりというケースも……
とはいえ、「すべての財産を○○に」といった簡単な内容であれば、自筆証書遺言で十分だと思います。
公正証書遺言
公正証書遺言は、公証役場で公証人が作成する遺言書です。
公証人とは、私人間の契約書などを認証する国の機関であり、主に弁護士や裁判官、検察官といったキャリアをもつ人が就きます。このような公証人が遺言の内容をチェックしてくれるため、内容・形式が法律的に正しいことが保証されており、無効になるリスクがほとんどありません。
専門家に遺言書の作成を依頼すると、依頼者の事情にもよりますが、ほとんどの場合でこの形式を勧められるでしょう。
メリット
・公証人のチェックが入るため、無効になるリスクが限りなくゼロに近い。
・原本が公証役場に保管されるため、紛失や改ざんの恐れがない。
・完成したら、遺言書が2通(正本と謄本。どちらも有効な遺言書として、手続きに使用できる。)交付されるため、事前に家族に渡しておける。
・遺言者が亡くなったあと、家庭裁判所の検認を受けずとも遺言を使うことができ、相続人の負担が少ない。
・銀行などの手続きが、自筆証書遺言と比べてスムーズ(信頼性が高いため)
デメリット
・作成費用(公証人の費用)がかかる。
・専門家(弁護士、司法書士、行政書士など)を通して作成する場合、専門家の費用もかかる。
・専門家を通さない場合、自分で公証人と打ち合わせをする必要がある。
・証人を2人用意して立ち会わせる必要があり、その証人には遺言の内容を知られてしまう。
・公証人が確認するのは法律上の不備がないかという点のみで、内容そのものが適切かどうかのアドバイスはしてくれないため、別途専門家に相談する必要がある。
秘密証書遺言
秘密証書遺言は、遺言者が内容を秘密にしたまま作成できる遺言書です。作り方の大まかな流れは以下のとおりです。
- 自分で遺言書を書いて封をし、封印をする。
- 公証役場に行き、公証人と証人2人の立会いのもと、「自分の遺言であること」を証明してもらう。
(封印をしたままなので、内容を知られることはありません。) - 遺言書を持ち帰り、自分で保管する。
要するに、自筆証書遺言と公正証書遺言の間のような作り方ですが、メリットのわりにデメリットが多く、あまり選ばれていない手段です。
メリット
・自筆証書遺言と違い、署名部分以外は手書きでなくともよい(パソコンでつくってOK)。
・遺言書の存在を公証役場に登録できる(相続人が問い合わせれば教えてくれる)。
・公正証書遺言と比べて費用が抑えられる。
・公証人も内容を見ないので、内容を秘密にできる。
デメリット
・公証人が内容をチェックしてくれないので、自筆証書遺言同様、形式や内容に不備がある可能性がある。
・亡くなった後、実際に遺産を分配する前に、家庭裁判所による遺言の検認が必要となる。
・形式に不備があれば、遺言書が無効になる恐れがある。
・手続きに時間がかかる。
・自筆証書遺言同様、家庭裁判所で検認を受ける必要があり、相続人に負担がかかる。
・遺言書を自分で保管しなければならず、紛失のリスクがある。
主に選ばれているのは「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」です。
内容を考える前に形式面で無効になってしまっては元も子もないので、それぞれの特徴を知って、自分に合った形式を選びましょう。
遺言書の作成手順
遺言書を作成する際には、次の手順を踏むとわかりやすいでしょう。
① 遺産のリストアップ
まずは、自分が持っている財産や負債を把握しましょう。
現預金や不動産、株式はもちろん、ローンの残債や保険など、自分が死んだ後に残るものの全体像を把握することが大切です。
② 相続人や受遺者の確認
次に、自分の相続人が誰かを確認しましょう。
相続人以外に財産を残したい場合には、ほかの相続人とのバランスや税金などの面で注意が必要です。また、相続人であっても、特定の相続人に多くの財産を残す場合、遺留分に注意しましょう。
③ 遺言の内容を決める
続いて、誰に・何を・どうやって相続させるか決めましょう。
このときに、遺言の内容を実現する「遺言執行者」も決めておくと、銀行口座の解約などの手続きをスムーズに進めることができます。
④ 遺言書の作成
内容が決まったら、実際に遺言書を作成してみましょう。
自筆証書遺言であれば紙・ペン・はんこ(実印が望ましい)があれば、すぐにでも作れます。
公正証書遺言を作成する場合は、
・直接公証役場に問い合わせる
・弁護士、司法書士、行政書士などの専門家に相談する
のどちらかの方法を選びます。
後者の場合、遺言書に書く文章や公証人との打ち合わせは専門家が行います。
⑤ 保管方法の選定
作成した遺言書は、なくしてしまわないよう丁寧に保管します。
自筆証書遺言であれば、法務局での保管制度もあるので検討しましょう(公正証書遺言であれば、万が一紛失しても公証役場に保管されています)。
また、せっかく遺言書を書いても、見つけてもらえなければ意味がありません。保管したら、信頼できる家族や友人に保管場所を伝えておきましょう。
遺言書の作り方を間違えるとどうなる?
遺言書に署名やハンコがなかったり、日付がなかったりする場合であっても、それだけで必ず無効になるというわけではありません。
しかし、裁判所で無効と判断されるケースもありますし、銀行や法務局が無効と判断して手続きに使えないケースもあります。
遺言書の形式に不備があると、具体的には次のようなリスクがあります。
まとめ
遺言書は、自分の思いを後世に伝え、相続人同士のトラブルを未然に防ぐための重要な手段です。
思い立ったが吉日。今回紹介した自筆証書遺言や公正証書遺言の作り方や効果、メリット・デメリットなどをしっかりと理解したうえで、自分に合った方法で、納得のいく遺言書を作ってみてください。
ただし無理は禁物です。遺言書の作成に不安がある場合や、どの種類が適切か分からない場合は、遺言の作成を得意とする専門家に相談し、適切なアドバイスを受けながら作成することをおすすめします。
ただし、必ずしも遺言書のとおりになるというわけではなく、原則として、たとえ遺言があったとしても相続人全員による遺産分割も可能ですし、遺留分の請求をされることもあり得ます。