遺言や離婚、金銭の貸し借りなどの法的手続について調べていると、「公正証書」や「公証役場」という言葉が目に留まることがあるでしょう。
公正証書とは、個人間の法律に関する文書(契約書、遺言書、委任状など)に公文書としての拘束力をもたせたものです(例えば、公正証書で遺言を作れば裁判所での検認が不要になりますし、公正証書で金銭消費貸借契約書を作れば強制執行が容易になります)。
この公正証書を作成するには、国の機関である公証役場を利用しなければなりません。公証役場には「公証人」という法律家が常駐しています。その公証人と打ち合わせをして公正証書の内容を決め、最終的には、公証人が公正証書を作ってくれます。
あまりなじみがない機関ではありますが、公証役場は、大きな契約や相続手続などの人生の重大な場面において重要となる場所です。この記事では、公証役場の機能や公証人の役割、公正証書の作り方について、わかりやすく解説します。
公証役場とは?
公証役場とは、公証人が常駐し、公正証書の作成や私文書の認証、確定日付の付与などを行う場所です。「役場」という名前ではありますが、正確には「公証人の事務所」のような意味合いをもち、国民が広く利用できるよう、全国に300か所ほど設置されています。
法律で定められた一定の手数料を納めれば誰でも利用できますが、確定日付の付与を除くほとんどすべての手続きについて、利用には事前予約が必要です(下記「利用の流れ(公正証書の作り方)」参照)。
公証人の役割
公証人とは、法務大臣によって任命される法律の専門家です。公正証書を作成する権限をもち、公証役場を運営しています。経歴としては元裁判官・元検察官・元弁護士が多く、そのなかから公証人になる試験に合格した人が、中立公正な立場で法律文書を作成してくれます。
そんな公証人の役割は、大きく3つあります。
- 文書の内容が法的に正しいかの確認
→ 契約書や遺言書を公正証書で作成するとき、内容が法律的に正しいかどうかを確認します。 - 当事者の本人確認と意思確認
→ 文書を作成する当事者が本人で間違いないか、本当にその文書を作成する意思をもっているかを確認します。
→ 本人確認については、身分証明書や実印+印鑑証明書で行います。 - 作成した文書の保管・管理
→ 公証役場で作成した公正証書については、当事者が持ち帰る分とは別に、原本が公証役場で保管されます。
→ 保管期間は基本的には20年間ですが、遺言公正証書については特別に、遺言者の死亡後50年・作成から140年・遺言者の生後170年の間保管されます(遺言者が亡くなるまで使えない文書だからです。)。
これら3つの役割はすべて、契約書や遺言書を公正証書で作成するメリットです。公正証書で作成すれば、法律のプロが内容や作成意思を確認してくれますし、原本を保管してくれるため、紛失や改ざんの心配もありません。
公証役場でできること
次に、公証役場でできることの具体例をまとめます。
公証役場では、以下のような手続きが可能です。
当サイトで取り扱っている生前対策や相続手続の場面では、信託契約書や任意後見契約書の作成、公正証書遺言の作成で公証役場を利用します。
利用の流れ(公正証書の作り方)
それでは、実際に公証役場を利用する際の流れをみていきましょう。
今回は、公正証書遺言を作成するケースを想定します。
1 事前相談・予約
公証役場に連絡し、どのような手続きをしたいかを伝え、予約を取ります。いきなり本番の予約となることもありますが、専門家以外の個人が予約をする場合、事前相談を利用するよう勧められることが多いです。その場合には、案内に従って事前相談の予約を取りましょう。
どの公証役場を利用するかは自由ですが、公正証書を作るときは実際に公証役場に行かなければならないため、行きやすい場所を選びましょう。ただし、遺言者が入院しているといった事情がある場合、出張対応をしてくれる公証人もいます(別途手数料がかかります)。
また、遺言公正証書の場合、当日は2人の証人に立ち会ってもらわなければなりません。証人になってくれる人がいなければ公証役場で用意してくれることもありますので、予約の際に伝えましょう。
2 必要書類の準備・案文の決定
公正証書を作成する日程が決まれば、必要書類を準備し、どのような内容にしたいかを記した案文を公証人に提出します。
必要書類については、公証人から指示されたものを準備してください。公正証書遺言の場合、遺言者の戸籍や住民票、印鑑証明書、身分証明書のほか、財産をもらう人(相続人や受遺者)の戸籍や住民票などが求められます。事前に提出しなければならないものもありますので、提出時期についても確認しておきましょう。
案文は、どのような内容にしたいか、どのような条項を入れたいかを文章化したものです。自分で作成して事前に公証人に提出することもできますし、事前相談や打ち合わせの内容から公証人が作成してくれることもあります。
公証人は、ここで集めた必要書類や案文の内容をもとに、当日押印する公正証書を作成します。
3 公正証書の作成(本番当日)
公証人との打ち合わせが終わり、案文が決まれば、いよいよ本番です。予約の日時に公証役場に行きましょう。
公証役場では、以下のような流れで手続きが進みます。
1:本人確認
時間になると、公証人の前に案内され、本人確認が始まります。名前や生年月日を聞かれるので、聞かれたとおりに答えましょう。また、この段階で印鑑証明書の提出を求められることも多いです。
2:内容の読み合わせ・意思確認
本人確認が終わると、公証人が、公正証書の内容を読み上げてくれます。同時に「本当にこの内容でいいか?」、「この遺言をする意思があるか?」を確認されますので、内容をよく聞いて、疑問に思うことがあれば質問しましょう。
3:署名・押印
内容の読み合わせが終われば、公正証書の原本に署名・押印をします。
遺言の場合、遺言者本人は実印での押印が必要ですが、証人2人は認印でも構いません。また、遺言の場合は不要ですが、二者間の契約など一定の場合には印紙を貼るよう指示されます。
当事者全員の署名押印が終われば、公正証書は完成です。
4:謄本の交付
先ほど署名・押印をした公正証書の原本は公正証書で保管されます。そして、当事者(遺言の場合は遺言者)には、原本と同じ内容の謄本が2通交付されます。
公証役場によって「正本と謄本」が交付されることや、「謄本を2通」交付されることがありますが、どちらにせよ効力は変わりません。
ここで交付される謄本には改ざん防止のための加工(穴あけ加工や特別な紙の使用など)がされています。紛失してしまわないよう、大切に保管し、各種手続きに利用しましょう。
遺言の場合、ご家族や周りの方がすぐに発見できるよう、保管場所を伝えておくとよいでしょう。
5:手数料の支払い
最後に、公証人所定の手数料を支払います。
手数料の額は国の法律で定められています(参考:日本公証人連合会公式サイト)。また、事前に公証人から正確な額を教えてもらえるので、現金またはクレジットカードで用意しておきましょう。
※ ただし、印紙代など、一部の費用は現金での支払いに限られます。
注意点
これまで公証役場について解説していきましたが、利用の際には注意点もあります。
このような注意点も踏まえたうえで、公証役場の利用を検討してください。
まとめ
公証役場は、日常ではなじみが薄いかもしれませんが、大きな契約や相続・離婚・会社設立など、人生の大切な場面で活躍する場所です。
しかし、「自分は利用すべきか」、「ほかの手段はないか」といった判断は難しく、公証人とのやり取りや公正証書には専門的な法律の知識が必要となる場合もあります。
不安がある場合は、公証人や弁護士・司法書士などの専門家に相談し、ご自身の意思を正しく反映した公正証書を作れるようにしましょう。
補足 ~「確定日付の付与」とは?~
確定日付の付与とは、ある文書が「確実にこの日に作られた」と証明することです。債権譲渡などの早い者勝ちになる一定の法律手続に活用されます。また、債権の譲渡通知など、確定日付があることで一定の法律効果が発生する手続もあります。