高齢の家族がいると、「お金を使い込んでしまわないか」「詐欺などの犯罪に巻き込まれないか」など、そのお金の管理が心配になるタイミングが訪れるでしょう。特に認知症が進行してしまうと、銀行での取引が制限されたり、口座が凍結されたりするリスクもあります。
このような事態にそなえる手段の一つが代理人カードの作成です。代理人カードがあれば、家族が本人に代わってATMでの入出金や振込等の作業をすることができ、本人の負担を軽減することができます。
しかし、代理人カードは万能ではありません。そこで今回は、代理人カードの仕組みや作成のメリットのほか、注意点や他の制度との違いなどをわかりやすく解説します。
認知症になると銀行口座が凍結される?
近年、少子高齢化に伴う認知症患者の増加が大きな問題になっています。そして認知症になると、法律行為に制限が生じ、家の売却契約ができなくなったり定期預金の解約ができなくなったりといった「資産の凍結」が起きてしまいます。
そんな資産の凍結のなかでも、特に日常生活に大きな影響を及ぼすのが、銀行口座の凍結です。銀行は、預金者の判断能力に疑いをもったタイミングで口座を凍結し、預金を保護するため、入出金の制限等の対策をとります。
このような対策には確かに預金を保護できるというメリットもありますが、お金を自由に出し入れできなくなると、生活費の支払いやまとまった出費がままならなくなり、結果として、家族全体に大きな影響が出てしまうことになるのです。
高齢の親が子どもと同居しているような場合には、子どもが親のキャッシュカードを管理しているといったケースもあります。さらに子どもが暗証番号まで把握していると、「口座のお金は子どもが自由に出し入れできるし、親が銀行に行くこともないから認知症になっても銀行に知られるおそれがない」と安心し、口座凍結のリスクを軽視することもあるでしょう。
しかし、このようなケースでも必ずしも安心とは言い切れません。近年、銀行では本人以外による取引を厳しく制限する傾向にあります。さらに、ATMでは取扱いできない大きな金額を引き出そうと窓口を利用することになれば、たとえ委任状があったとしても電話等の方法で本人の意思を確認されるでしょう。そこで本人が認知症であると判断されると、先述のように銀行口座が凍結されるおそれがあります。
このように、たとえ家族がキャッシュカードを管理している場合であっても、資産の凍結リスクは無視できないのです。
代理人カードとは?
このような銀行口座の凍結を予防する方法の一つとして利用されるのが、代理人カードです。
代理人カードとは、銀行口座の名義人に代わって、その家族などが預金の入出金をする際に用いるカードであり、「家族用に発行される予備のキャッシュカード」のような位置づけのものです。高齢者や体が不自由な方の家族を対象に発行されますが、発行には通常、所定の審査があり、当然ながら口座名義人本人の同意も必要です。銀行によって取扱いの有無や名称、作成の手順は異なりますが、近年の傾向として、対応している金融機関は増えつつあります(その性質上、ネット銀行では取り扱いがほとんどありません)。
代理人として登録できる人の範囲は銀行によって異なりますが、一般的には2親等内の親族や同居の家族といった条件が設けられています。口座開設の際に本人の来店が必要となる銀行も多いので、作成前に担当者に確認するようにしましょう。
代理人カードでできること・できないこと
代理人カードでできることは、銀行によって異なりますが、一般的にはATMでの入出金です。
その他、窓口での取引や通帳等の再発行手続き、暗証番号の変更などは本人でなければできませんので、注意が必要です。
代理人カードをつくるメリット
代理人カードをつくる一番のメリットは、日常的なATMの利用を家族が代行できることです。本人が銀行に行く頻度がぐっと下がりますし、それによって銀行から認知症と判断される機会が減り、口座凍結のリスクを軽減できます。
また、発行のコストが低いのも魅力のひとつです。銀行にもよりますが、一般的に代理人カードの発行は無料や千円程度の手数料で可能です。気軽な生前対策の手段といえるでしょう。
代理人カードの注意点
このように、一見便利な代理人カードですが、作る前に知っておきたい注意点もいくつかあります。
他の手段との比較
代理人カード以外にも、家族が高齢者の財産を管理する手段はいくつかあります。それぞれの特徴を整理・比較してみましょう。
代理人カード
代理人カードは、高齢の本人に代わってATMでの入出金ができるカードです。細かい発行の要件や利用の流れは銀行によって異なりますので、事前の確認が必要となります。
成年後見制度
高齢者の財産管理制度として最も有名なものが成年後見制度でしょう。
成年後見制度では、認知症になってしまった高齢者(=成年被後見人)に代わって、成年後見人が財産を管理します。
成年後見制度について調べていると、任意後見という言葉を目にすることがあるのではないでしょうか?
任意後見とは、認知症になる前に特定の人と任意後見契約を結んでおくことで、将来成年後見人になる人を自由に選ぶことができるという制度です。後見の内容(財産管理の方法や後見人の報酬等)も柔軟に決めることができるため、通常の成年後見制度と比べて本人の意思が反映されやすいという特徴があります。
ただし、任意後見制度では、後見人に加えて、裁判所が指定する後見監督人が選任され、その報酬も発生します。また、裁判所の監視があることに変わりはないので、利用の際は十分にメリット・デメリットを検討する必要があります。
家族信託(民事信託)
次に考えられる手段として、家族信託(民事信託)があります。
家族信託とは、特定の財産を家族に預け、管理してもらう方法です。よくあるパターンとして、高齢の親(委託者)が財産を預け、子ども(受託者)がその管理をし、そこから生じる利益を親(受益者)が享受します。始めるためには、委託者と受託者が信託契約を結ぶ必要があります。
生前贈与
これまでに紹介した方法は「高齢の親名義の財産をどう管理するか」に焦点を置いていますが、「いっそのこと元気なうちに財産を子どもに渡してしまおう」という考えもあるでしょう。このような手段を、生前贈与といいます。
生前贈与とは、認知症になる前に財産を子ども等の他者に贈与することです。ただし、税金面でデメリットも大きいので、実施する前によく検討するようにしましょう。
まとめ
代理人カードは、日常的なお金の出し入れを家族がスムーズに行うための有効な手段です。認知症になる前に準備しておくことで、本人も家族も安心できるでしょう。
ただし、できることはATMでの入出金といった基本的な取引に限られており、すべての財産管理に対応できるわけではありません。ご家庭の状況や財産管理の目的に応じて、他の手段を検討することも大切です。
ひろはた司法書士事務所では、経験豊富な司法書士が各ご家庭の状況をうかがい、どのような生前対策が必要かをご提案いたします。気になる方はぜひ一度ご相談ください。

執筆・監修:司法書士 廣畑 優(ひろはた司法書士事務所代表)
大阪市に事務所を構える司法書士/相続・遺言・家族信託・成年後見など、家族や財産に関する手続きを中心に幅広く対応
1級ファイナンシャル・プランナー(FP)資格も保有し、法務とお金の両面からご家庭をサポート/「わかりやすく、誠実に」をモットーに、安心して相談できる身近な専門家を目指しています。


